近年、消費行動が「モノを保有するモノ消費」から、「モノやサービスが持つ価値を利用するコト消費」へと変化しています。それに伴い多くの企業では、必要なサービスを定額制で提供するサブスクリプション型のサービスへの転換が始まってます。これはサービスを提供する企業だけではなく、自動車やファッション業界など、従来はモノを提供してきた企業にまで浸透しつつあります。一方で、製造業を中心としてきた日本では、顧客の利用率の維持や増加する顧客の対応に関するノウハウが少なく、苦労する企業も少なくありません。
この記事では、そのようなサブスクリプション型のサービスの利益維持・増加に欠かせないカスタマーサクセスの概要とメリット、そして成功のポイントについて解説します。
目次
1. カスタマーサクセスとは?
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは、顧客と継続的に良好な関係を築き、リテンション率(継続利用率)を維持・向上させ、最終的にLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化させる活動のことを指します。
カスタマーサクセスへの取り組みは日本ではまだ始まったばかりですが、日本に比べてSaaSビジネスが早期に台頭した海外では、カスタマーサクセスをSaaSビジネスの成功に必須の活動として位置づけています。
カスタマーサクセスは顧客からの問い合わせの有無にかかわらず、企業側から顧客に対して能動的なアクションを起こします。そして顧客の課題解決やビジネスの成功に貢献することで、サービスの継続利用に繋げる活動を行います。
カスタマーサクセスでは顧客のビジネスや目的を深く理解した上で、目的達成のために自社サービスが提供できる価値とは何かを定義し、必要なサポートを能動的に提供します。たとえば、必要とされるサービスとその機能の紹介や利用方法を、利用開始時にはもちろんのこと、サービス開始後も顧客が必要とするタイミングで提案します。契約してもらうまでの関係性ではなく、契約・サービス利用開始後も定常的に顧客側の利用状況をデータやヒアリングで確認し、顧客の成功に伴走する姿勢を持つ、ということが重要なポイントになります。サービスの継続利用を通じて、顧客側が成功を収められるようにすることが最も大きな目的です。
また、顧客の成功を目的とするカスタマーサクセスでは、顧客のビジネスやサービスの利用目的を深く理解しておく必要があります。顧客が何を目指し、どのような業務プロセスに自社サービスを組み込んで、どう使うかということを利用開始時に把握していないと、必要なサポートや提案を適切に行うことができないからです。利用開始前だけでなく、利用開始後にもデータなどを確認することで、現在の利用状況を常に理解するよう努めなければなりません。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートとの違い
初めてカスタマーサクセスに取り組む企業にとっては、顧客と良好な関係を築くという点から、カスタマーサポートと混同されるケースがよくあります。カスタマーサクセスとカスタマーサポートはどちらも重要な活動ですが、その役割や働きかけの方法は大きく異なります。
カスタマーサポートとは、主にコールセンターなどで顧客からの問い合わせに対応する活動のことを指します。顧客からのアクションを起点とし、顧客の持つ疑問点や問題点に対処するのが基本的な役割です。
多くの場合、カスタマーサポートでは製品やサービスの内容、提供する情報の改善などを通じて、問い合わせ件数を減少させることを目的としており、顧客の満足度を維持するために、顧客からの問い合わせに過不足なく対応することが求められます。
サクセスとサポートをマラソンに例えると
カスタマーサクセスとカスタマーサポートについて、マラソンに例えるとその違いがより明確になります。
顧客がランナーだとすると、カスタマーサクセスは伴走者(コーチや栄養士)、カスタマーサポートは大会スタッフという位置付けになります。 カスタマーサクセスもカスタマーサポートも、ランナーである顧客を支援する立場に変わりはありません。
カスタマーサクセスは顧客であるランナーと共に目標に向かって伴走しており、顧客の目標を実現するために能動的なサポートを行います。例えば、練習メニューを考え、タイムの計測やフォームの修正を行い、ランナーの食べる食事の栄養バランスを考えます。この場合、ランナー(顧客)の成功が最大の目的であり、伴走者は黒子に徹した存在です。必要に応じて、近くで見ている人にしかわからない気づきやアドバイスを与えます。
一方カスタマーサポートは、基本的に特定の顧客に肩入れせず、すべてのランナー(顧客)が競技を行うことのできる環境づくりを手伝います。したがって、問い合わせに対して適切かつ迅速に回答を行うことはもちろんですが、どんな問い合わせに対しても一定の品質を維持しながら期待を超える対応を行うという重要なミッションを背負って活動しています。
上記のような違いからわかるように、どちらも顧客の成功の実現のために必要な業務ですが、より顧客の成功にコミットし、契約範囲で自発的に支援活動を行うのがカスタマーサクセスです。
2. 解約を防ぐためになぜカスタマーサポートでは不十分なのか?
カスタマーサポートとカスタマーサクセスは、自社サービスを不便なく利用してもらい、解約を防ぐという役割において共通していますが、LTV最大化のために重要な「解約を防ぐ」という視点からは、カスタマーサポートだけでは不十分です。
カスタマーサポートは顧客からの問い合わせというアクションを起点にしています。しかし、そのように顧客が自らの時間と手間を割いてまで問題の解決を行う場合は、その問題がよほど致命的であるか、日々活用している中で大きな課題を感じているかのいずれかであることが多いでしょう。そこまで大きな問題を抱えていない顧客の多くは、自ら声をあげることなく、解消されない小さな不満を持ったままサービスを利用します。このような場合、課題が顕在化したタイミングで競合他社へ乗り換えられてしまい、自社サービスの解約に繋がるケースがほとんどです。したがって、企業側から能動的に働きかけなければ、製品・サービスの問題点に気づくことができず、解約率を大きく引き下げることが困難なのです。
多くのカスタマーサポート部隊では、顧客側からの問い合わせへの対応で手一杯であり、顧客の利用状況を確認した上で、必要なサポートや提案を検討するまでに踏みこめていません。そのため、サービスの解約を防ぐためには、カスタマーサポートとは異なる機能を持つカスタマーサクセスが必要です。
3. カスタマーサクセスの重要性が増加している背景
ここでは、近年カスタマーサクセスの重要性が増加している背景や理由を、もう少し掘り下げて解説します。
コモディティ化によるCXの重要性の向上
現在、市場には多くのモノやサービスがあふれ、多くの消費者は自分に必要なモノを苦労することなくほとんど揃えることができています。加えて、これまでとは異なる機能を持つ画期的な新製品は少なく、消費者から見ると多くのモノが類似品に見えているといっていいでしょう。
そこで、製品やサービス自体が持つ価値そのものではなく、その製品やサービスを利用することによって得られる体験(CX=カスタマーエクスペリエンス)の重要性が高まってきました。CXを重要視する動きは、BtoC向けの製品・サービスだけにとどまらず、BtoB向けの製品・サービス(特にサブスクリプション型の製品・サービス)にも広がっています。
「LTV最大化」という考え方の浸透
カスタマーサクセスの目的部分でも既に少し触れましたが、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、ある顧客が企業に対して契約の開始から終了までの生涯にわたってもたらす収益のことを指します。企業は新規の顧客を得るためにマーケティング面、営業面でさまざまな資源を投入して活動を行います。カスタマーサクセスではそのように大きな労力をかけて獲得した顧客との関係を一度だけの契約に留めず、継続的に良好な関係を築いて顧客ロイヤルティを向上させ、LTVの最大化を目指すという考え方をより重要視しています。
この背景には現代におけるサブスクリプションビジネスの台頭が大きく影響していますが、それだけではありません。競争が激化し、多くの企業が収益活動の高効率化を目指すなかで、顧客ロイヤルティを高めることが収益の改善に貢献することは、サービスビジネス以外でも認識されてきています。BtoBビジネスにおいて、顧客単価を上げるアップセルやクロスセルを成功させるためには、顧客との良好な関係性が鍵となります。
購入後における満足度の重要性の増加
インターネットやSNSの普及により、消費者が目にする情報は以前と比較すると各段に多くなりました。その情報の波の中で、口コミなどの実際の利用者のレビューや生の声の重要性が高くなりつつあります。企業においても、似たようなサービスが複数存在する中で、多くの情報をイチから収集するよりは、既に他部門や他企業が利用しており、満足度の高いサービスを中心として比較検討する方が効率的です。したがって、導入に至った自社の既存顧客が、その後も満足して利用し続けてくれるかどうかは非常に重要なポイントです。
4. カスタマーサクセスの機能・役割
上記のような状況の中で、カスタマーサクセスが担う機能や役割を解説します。
長期的な関係構築のための能動的サポート
カスタマーサクセスにおいてはLTVを最大化することが大きな目的になりますが、LTVを最大化するためには、顧客単価を高めたり、継続的な利用を促したりする必要があります。その中でもより具体的にカスタマーサクセスが達成すべき目標は、顧客の継続利用を促し、必要な顧客にはアップセル・クロスセルを行い、そして解約率を低下させることといっていいでしょう。顧客が自ら上位プランへの変更を行ったり、解約を決定する前に自社へ問い合わせをしてくれた場合は、その課題に対処することもできますが、そのようなケースは多くありません。
そこで、顧客のアップセルや解約に至る兆候を企業側が能動的に察知し、迅速に対応をする必要があります。自社サービスの購入・利用プロセスの中でそれらのポイントがどこにあるかを把握し、予め対策することも重要です。
カスタマーサクセスはこのような役割を持つため、アップセル率や継続利用率や解約率が活動の指標となります。また、導入初期に顧客企業内でサービスの活用が浸透するかどうかは、一般的に継続利用率と相関が高いとされています。このような定着率(オンボーディング完了率)も活動の重要な指標となります。
なお、顧客のサービス導入目的や業務プロセスを理解するためにも、導入初期に行われる活用定着までの活動(オンボーディング)は非常に重要です。基本的には、契約開始までに営業部隊が情報を把握しているはずですが、改めて顧客との間で導入目的の認識を合わせ、顧客が必要とする機能や利用方法、活用定着までのステップを明確化します。その上で、活用定着まで能動的にサポートを行います。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、活動の目的が異なるため、このように確認すべき指標も異なります。カスタマーサポートでは、通常、顧客からの問い合わせに対していかに迅速に課題解決に対応できたか(問い合わせへの返答時間、対応回数)が活動の指標となり、売上や利益に直結する指標を活動指標としては持ちません。カスタマーサクセスの一般的なKPI指標について、詳しくは以下の記事も参照してみてください。
サブスクリプション型のサービスでチャーンレートはなぜ重要?カスタマーサクセスで解約率を減少させる方法を解説!
オンボーディング完了率はSaaS型サービスでなぜ重要なのか?オンボーディングを成功させるポイントを徹底解説!
カスタマーサクセスを成功に導くために設定すべきKPIとは
顧客の課題を把握・理解し、伴走する
顧客と良好な関係を築き、継続利用に結びつけるためには、顧客の課題と目的を理解した上で、顧客がその目的を達成するために自社のサービスで出来ることを提案し、定常的な活用に繋がるように伴走する姿勢が求められます。顧客企業の重要な業務プロセスの中に、自社のサービスを取り込んでもらうことができれば、顧客にとって解約や乗り換えの手間(スイッチングコスト)が生まれ、解約リスクを低減させることに繋がります。
なお、顧客理解のためにカスタマーサクセスの担当部門は、営業やカスタマーサポート、マーケティングなどの多くの部門と情報を共有し、連携することが必要不可欠です。
アップセル・クロスセルによる収益向上の機会を捉える
より高価格のサービスを契約してもらうアップセルや、自社のその他のサービスとの合わせ買いをしてもらうクロスセルにより、LTVの最大化を目指すことは、前述したとおりカスタマーサクセスの持つ大きな目的の一つです。そしてアップセルやクロスセルの成功には、顧客への理解と同時に、顧客との良好な関係性が必要不可欠になります。カスタマーサクセスの活動では顧客とのコミュニケーションだけではなく、データからも顧客の現在の利用状況を把握し、顧客側の業務効率化や目的の達成のために、アップセルやクロスセルのチャンスがないかを探り、提案を行います。
この点においては営業の活動と混同されることがありますが、営業は新規契約・新規受注を増加させる役割を強く持ちます。そのため営業ではそれらを目標に設定していることが多く、その点から新規顧客の獲得に比べアップセルやクロスセルは優先順位が下がることがほとんどでしょう。
顧客のニーズを拾い、製品・サービスの改善に繋げる
顧客を深く理解した上で能動的に働きかけるカスタマーサクセスは、顧客とのコミュニケーションを通して顧客のニーズを把握しやすいため、製品・サービスの改善提案につなげることができます。需要の高い機能やサービスの追加、既存機能やサービスの改善は、該当する顧客の満足度を高めます。また、他の既存顧客や新規顧客のニーズに合致させることができれば、新規導入率や継続利用率の向上にも繋がります。
また、顧客の継続利用率向上のためには、サービス自体の操作や利用のしやすさだけではなく、契約から利用のすべてを含んだ体験全体(CX=Customer Experience)の向上も必要です。カスタマーサクセスによる能動的なサポートの提供は、サービスのCX向上に大きく貢献します。近年、サービスや商品そのものにおける差別化は極めて難しくなってきています。カスタマーサクセスの充実によりCXを向上させることができれば、他社との差別化に繋がるはずです。
5. カスタマーサクセスの主な業務
カスタマーサクセスの業務は様々ですが、大きく4つのフェーズに分類できます。
- Onboarding(オンボーディング):導入直後に行う活用方法理解のための支援
- Adoption(アダプション):オンボーディング後に行う定着に向けた活用支援
- Expansion(エクスパンション):サービスの更新やアップセル/クロスセル活動
- Product Feedback(プロダクトフィードバック):サービスの改善や新機能の提案
このフェーズはさらに①導入フェーズと②〜④導入以後の活用フェーズの2つに分けて考えることができます。オンボーディング支援は導入直後の一連の流れがすでに定型化されているため仕組み化がしやすい一方、アダプション以降のフェーズは顧客特有の事情や作法が絡むため、丁寧に個別対応をしていく必要があります。
顧客を支援するカスタマーサクセスの人数は、チーム単位の場合と部門単位の場合があり、人数構成によって支援すべき領域も異なってきます。
例えば2−3名のカスタマーサクセスチームの場合、一人当たりの担当顧客数は30社程度と想定されます。少ない人数で業務を回す必要があるため、多くの場合はカスタマーサクセス担当者がオンボーディングから活用支援まで個社ごとに一貫して担当します。
業務量は多いですが、顧客と密接な関係を作りやすいぶん、解約のリスクが低く抑えられる・リテンションの改善が見込めるといったメリットがあります。その一方で、少ない人数で全体を見なければならないため、詳細な機能レベルの話に加え、アップセル/クロスセルのKPIも追っている場合にはそれらの提案にも時間を割く必要があります。
カスタマーサクセス業務が細分化され、大人数で運営している場合には、各フェーズにそれぞれ専任メンバーを配置することができます。社内の連携は必須ですが、顧客へより高い質のカスタマーサクセス活動を行うことができ、ナレッジやデータの共有によって早期にノウハウが貯まっていくでしょう。チーム間の情報連携を行い、一丸となってカスタマーサクセスに取り組むことで、効率が高く満足度の高いサポートを提供できることが大きなメリットです。
6. なぜカスタマーサクセスが収益を最大化するのか?
カスタマーサクセスの実現は、どのようなメリットをもたらすのでしょうか。本章では、具体的な例として、カスタマーサクセスによってなぜ収益が改善されるのかを解説します。
アップセル・クロスセルによる売上増加
カスタマーサクセスが実現できると、アップセル・クロスセルが成功しやすく、顧客単価の向上が見込めます。カスタマーサクセスが実現できていると、顧客の状況・必要としている機能やサポート内容を素早く把握できるためです。
顧客情報や利用データ・契約データ・メールなどのコミュニケーション情報からアップセル・クロスセルの成功率を見極め、効果的に提案を実施することで、売上増加につなげられます。
また、LTV (顧客生涯価値)を軸として顧客を分類できるため、優先度の高い顧客を明確化できます。したがって、効率的なアップセル・クロスセル活動が実施できるのです。
顧客ロイヤルティ向上による⻑期的な関係構築
カスタマーサクセスによって、顧客が求めるときに適切なフォローを行うことで、顧客ロイヤルティの向上が期待できます。その結果、顧客との⻑期的な関係が構築できるでしょう。顧客との⻑期的な関係構築は、安定した売上が確保できるだけでなく、顧客単価やリピート率の向上、新規顧客の獲得にも結びついていきます。
良好な顧客体験(CX)を実現できているかという視点はロイヤルティの醸成につながる重要な要素ですので、意識しながらフォローを行うと良いでしょう。また、使っている製品・サービスへの不安や不満を解消することも、顧客の満足度を高め、ロイヤルティの醸成に寄与します。
解約・失注の低減による売上ロスの防止
カスタマーサクセスが実現すると、顧客の変化から解約を事前に予測し、的確なフォローで解約を阻止できる可能性が高くなります。サブスクリプション型のサービスにとって、最も避けたいことは顧客の解約・失注率の増加です。解約率を減少させられないと、安定した収益の見込みが立たず、営業の新規契約の目標数が高くなり続けるという悪循環が生まれてしまいます。
例えば、利用データから解約の兆候を見つけ出せれば、先回りして解約の原因を取り除ける確率が上がります。その兆候を逃さず拾い切れるよう、データに基づくカスタマーサクセスを実現しましょう。
7. カスタマーサクセスの課題と成功のポイント
カスタマーサクセスの重要性を理解し、取り組みを始めた企業でも、活動がなかなか成果に結びつかないケースは少なくありません。ここでは、カスタマーサクセスの課題と成功のためのポイントを解説します。
カスタマーサクセスの課題
●社内ノウハウの不足
カスタマーサクセスは、日本では近年取り入れられはじめたものであり、ノウハウを持っていない企業も多いでしょう。しかし、海外ではカスタマーサクセスへの取り組みは日本よりも進んでおり、同時にサブスクリプション型ビジネスの成功を大きく左右する重要な要素であることも示されています。カスタマーサクセスには活動の成果を測る指標などが存在し、成果につなげる定石があります。そのため、そのノウハウを理解し、自社の施策に取り入れることができているかどうかが成果に直結します。
また、特に売り切り型の製造業が中心となった日本では、その機能や役割が既存のカスタマーサポートや営業活動と混同されるケースも少なくありません。サービスビジネスにおいては、特にスピードが重要です。既存の機能や役割で代替し、カスタマーサクセスが軌道に乗らないという失敗事例は既に多く存在しています。やみくもに失敗を重ねるのではなく、先駆者たちの事例を参考に、ポイントを押さえて効率的に取り組みを行うことが重要です。
●顧客の増加に対するリソースの不足
繰り返しになりますが、カスタマーサクセスでは、顧客を理解し、伴走する姿勢が重要です。しかし顧客に対する深い理解が求められる分、対応すべき顧客の数が増加すれば、それだけ時間が必要になります。多くの企業では、まだカスタマーサクセスに十分な人材を投入できていません。また、たとえ投入できたとしても、すべての顧客に対して一律に時間をかければ、業務量が膨大になってしまいます。
●適切なKPIが立てられず利益改善に結びつかない
顧客満足度の向上は、サービスの継続利用のために重要です。一方で、カスタマーサクセスの目的は解約率を低減し、利益を増加させることにあります。そのため、活動の成果として顧客満足度のみ、あるいは売上のみ確認するのでは不十分です。
特に、カスタマーサクセスはカスタマーサポートと活動を混同されがちです。カスタマーサポートとカスタマーサクセスとの指標の面での大きな違いは、利益に直結する指標を持つかどうかです。顧客からの問い合わせに迅速に対応し、課題を解決することを目指すカスタマーサポートは、基本的に直接的な利益への貢献を目指す組織ではありません。一方でカスタマーサクセスでは、顧客との良好な関係構築により利益の維持拡大に責任を持ちます。そこで、チャーンレートと呼ばれる解約率自体を確認することが最も重要です。また、チャーンレートには複数種類が存在するため、自社に必要なものを見極め、毎月定常的に確認する必要があります。
●成果の可視化・社内認知の不足
カスタマーサクセスがサブスクリプション型ビジネスの成功に重要であることは既に述べた通りですが、その一方でカスタマーサクセスは成果の可視化が難しいという課題があります。例えば、サービスの契約継続率が上がったからといって、カスタマーサクセスが直接的な要因であることを示しづらい側面があります。そのため、活動の重要性を社内に周知させることができないケースが少なくありません。そこで、KGIを達成するために必要なKPI指標を複数置き、活動が利益にどのように影響するのかを可視化できるようにする必要があります。
●経営層のカスタマーサクセスへの理解不足
カスタマーサクセスは顧客との良好な関係を長期的に構築する活動です。顧客のサービス導入から始まり、長期にわたる取り組みとなるため、活動の結果が利益に反映されてくるまでにも一定の期間を要します。また、仕組みを構築して活動を軌道に乗せるのにも時間がかかります。そのため、経営層がカスタマーサクセスの重要性と、長期的な活動になり軌道に乗るまでに時間を要することの両方を理解していることが成功の前提です。
カスタマーサクセスの成功のポイント
続いて、成功のポイントを解説します。
●専任の担当者を割り当てる
自社でカスタマーサクセスに初めて取り組む場合、業務内容やプロセスの決定などの仕組みづくりが重要です。既存の業務と兼任することも可能ですが、他の業務に追われてしまって対応がおざなりになったり、業務の境界線があいまいになり、カスタマーサクセスの本来の目的に合致しないことが起こることが多々あります。そのため、役割と目的を明確化し、専門のチームや担当者を割り当てることが重要です。
●PDCAを念頭に置き、軌道修正を行う
カスタマーサクセスには成功の定石が存在しますが、提供するサービスの特徴や抱える課題などは企業ごとに異なります。そのため、最初からプロセスを確立するよりは、まずはノウハウに従って始め、自社にあった取り組みを発見できるまでは試行錯誤を行うことが重要です。
また、取り組みが進めば、抱える課題や重点を置くべきポイントは自然と変化します。常にPDCAを回し、適宜軌道修正を行うと良いでしょう。
●顧客に関する情報を一元管理し、顧客の理解に努める
カスタマーサクセスでは、顧客を深く理解することが重要です。そのため、顧客と接点を持つ営業やカスタマーサポートなどの部門と連携し、各々の部門が持つ顧客に関する情報を一元管理し、把握するための工夫が必要です。
●対応の優先順位づけを行う
カスタマーサクセスは、顧客と伴走する姿勢を持つことが重要です。しかし一方で、すべての顧客に対して一律の対応を行うことは、顧客数が増加するほど難しくなります。そこで、利益への貢献度が高い顧客に対しては、担当者を訪問させるなどの丁寧な対応を行い、そうでない顧客に対しては自己解決を促すために動画などのツールを提供するなど優先順位をつけて、合理的な方法によってより多くの顧客に対応できるよう仕組み化することが重要です。
顧客への対応の優先順位づけについてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事も参照してみてください。
●アップセル・クロスセルを意識する
解約率の低減は非常に重要ですが、同時に既存顧客のアップセルやクロスセルも意識しましょう。継続利用している優良な顧客がより金額の高いプランに乗り換えたり、オプションのサービスを追加契約するアップセルや、異なるサービスも追加契約するクロスセルを行うことが出来れば、解約による損失を補填することが可能です。
また、これらのアップセルやクロスセルは一時的な利益増加ではなく、継続利用により収益を大きく増加させ、長期的に良好な成長を続けることに繋がります。
いずれの場合も、顧客の課題を理解し、必要とされるサービスを提案することによって実現します。
●カスタマーサクセスツールを活用する
カスタマーサクセスツールは、初めてカスタマーサクセスに取り組む企業に特におすすめです。カスタマーサクセスツールでは、ログイン率やある機能の利用率の低下など解約の兆候となる行動を察知した際に、アラートを出して担当者に対応を促します。また、顧客とのコミュニケーションの履歴を含む顧客に関する情報を一元管理する機能が備わっています。そして、解約率などの必要なデータ指標を常に把握することのできるダッシュボード機能もあり、活動の成果の確認やデータの活用がしやすくなっています。
このような基本機能を利用して対応を行うだけで、業務が効率化され、同時に成果を出しやすくなります。どこから取り組んだらよいかわからない企業にこそ、導入の検討をおすすめします。
●データを活用する、適切な指標を常に確認できるようにする
解約率を減少させるためには、データの活用が非常に重要です。データを読み解くことで、顧客のどのような行動が解約率と利用率の増減に影響しているかが分かります。また、解約率が高い場合でも、その中で特に重要な課題は企業によって異なります。導入時の定着率が低いのか、自社内での対応にばらつきや不足が生じているのか、そもそも製品やサービス自体に不満点があるのか、それぞれによって取るべき対応は異なります。常にデータを参照し、取り組むべき課題を明確化した上でその成果を確認しましょう。データの蓄積と参照の仕組みが整っていない場合には、前述のカスタマーサクセスツールの利用がおすすめです。
カスタマーサクセスツールのメリットとは?事例をもとに代表的な導入効果を徹底解説
カスタマーサクセスを成功に導くツールの活用法とは
カスタマーサクセスを成功に導くためのよくある課題とツールの種類
●オンボーディング完了後も継続的にサポートする
オンボーディング完了後も、必要なタイミングで継続的に顧客に活用のサポートする活動は活用定着のために重要なプロセスですが、実際に顧客が利用を進めていく中で、サービスを使って達成したい目的や用途が変わる可能性があります。
また、時間が経過するにつれて、利用メンバーが変更になったり、利用頻度が落ちたりすることも考えられます。そこで、オンボーディングが完了した後も、何か新しい課題が生じていないかをデータや顧客とのコミュニケーションによって把握し、必要なタイミングでサポートを継続的に行うことが重要です。
8. まとめ
この記事では、カスタマーサクセスに初めて取り組む企業や、なかなか成果に結びつかない企業に向けて、カスタマーサクセスと既存のカスタマーサポートとの役割の違いや、多くの企業で抱えるカスタマーサクセスの課題と成功のポイントについて解説しました。
近年の消費者行動の変化やCXの重要性の増加などにより、多くの企業でサービスを継続的に提供することがビジネス成功の要になりつつあります。カスタマーサクセスはそのような企業にとって、非常に重要な役割を持ちます。日本ではまだ浸透が始まったばかりなので、他社に先立ちいち早く成功させることができれば、ビジネスの成長に大きく貢献するでしょう。この記事を参考に、ぜひカスタマーサクセスの取り組みを始めてみてください。