カスタマーサクセスを成功に導くために設定すべきKPIとは

カスタマーサクセスは、サブスクリプション型のビジネスモデルの台頭に伴い、近年注目を集めている活動です。サブスクリプション型のビジネスでは、売り切り型のビジネスモデルと異なり、顧客にサービスを中長期的に継続して利用してもらうことで、企業の利益を最大化していきます。よって、顧客が目指していることを深く知り、KPIを設定して計測しながら顧客の成功を支援していくことが大切です。
この記事では、カスタマーサクセスにおけるKPIの重要性やKPIの事例、KPIを設定する際の注意点を紹介します。

1. カスタマーサクセスにおけるKPIの重要性

まず、カスタマーサクセスにおけるKPIの重要性を解説します。

KPIの重要性

KPIとは、「Key Performance Indicator(重要業績指標)」の略で、主にビジネスの目標達成度合いや健全性を定量的に把握することを目的として使われる指標です。
KPIを定期的・定量的に可視化し分析することで、ビジネスの追加投資や事業継続の判断、改善に向けた施策の立案といった次のアクションへつなげられることから、事業活動において非常に重要性の高い手法といえるでしょう。

カスタマーサクセスにおけるKPI

カスタマーサクセスにおいては、「顧客への貢献度の可視化」、「顧客へのアクションの実行判断」、「顧客の成功をより支援するための提案(顧客に追加投資を促す)」、「顧客に対する支援内容の改善判断」などを目的として、それらを達成するためにKPIを設定します。またこのような、KPIの上位に位置する目的はKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)と呼ばれます。
特に、顧客から問い合わせやサービス解約といったアクションが発生する前に、能動的な支援を行うカスタマーサクセスでは、その実行判断にKPIの活用が不可欠です。

SaaSビジネスは独自の指標を持つ

サブスクリプション型に代表されるSaaSビジネスでは、そのサービス形態から売り切り型のビジネスとは異なる独自のKPI指標を用いる必要があります。
代表的な例としては、解約率(チャーンレート)が挙げられるでしょう。サブスクリプション型のサービスは、月ごとの利用料を抑えて顧客の導入ハードルを下げている代わりに、継続利用をしてもらわないと利益を維持・拡大することが困難なケースが多いビジネスです。一方で、多くの売り切り型のサービスでは、1回の購入でも利益を獲得できるように価格を設定しています。

SaaSビジネスとしての成功を目指すためには、カスタマーサクセスもSaaSビジネス独自の指標の中からKPIとするものを採用する必要があります。
なお、こちらの記事でも解説しているように、カスタマーサクセスとカスタマーサポートでは「顧客の成功」という最終的な目標は同じであっても、それを達成するにあたっての役割が異なります。そのため、採用すべきKPIも異なることを留意しましょう。

カスタマーサクセスの直接的な影響は見えにくい

顧客の成功のために伴走するカスタマーサクセスは、顧客の継続利用、ひいては売上や利益に影響を及ぼす重要な活動です。サブスクリプション型のサービスで成功を収めるためには欠かすことができない一方で、営業活動と比較すると事業への直接的な貢献の度合いが見えにくく、またそのために軽視されてしまうことも少なくありません。そのため、事業への貢献度が客観的にわかる目標をきちんと数値として設定し、活動の成果を見える化することがより重要と言えます。

カスタマーサクセスツールを活用してKPIを測定する

カスタマーサクセス活動の品質を高めるには、スピーディかつ定量的・定期的にKPIを把握し、支援が必要な顧客を見つけ対応することが重要です。KPIは、迅速かつ正確に把握し、意思決定につなげることが重要です。情報の可視化には、BIツールやカスタマーサクセス統合管理ツールをうまく活用し、大量のデータからタイムリーに状況を把握する手法がおすすめです。カスタマーサクセス部門は社内で最もデータを活用する部門となることを目指してもいいかもしれません。

2. カスタマーサクセスのKPIとなる8つの指標

カスタマーサクセスには、独自のKPIが数多くあります。
ここでは、カスタマーサクセスで設定されることの多い代表的なKPIを詳しく解説します。

LTV(顧客生涯価値)

LTVとは、Life Time Valueの略で、顧客から生涯(長期)にわたって得られる売上や利益のことです。つまりLTVは、契約した1人・1社の顧客から契約が終わるまでの間に得られる、売上もしくは利益すべての合計額のことを指します。顧客と継続的に関係を持ち続けるサブスクリプションモデルのサービスでは、このLTVをどれだけ最大化できるかが事業成功の鍵を握ります。

LTVの計算式は、以下のとおりです。

計算式

LTV = 購買単価 × 購買頻度 × 契約継続期間

また、B2BのSaaSサービスのカスタマーサクセスにおいては、以下の計算式でLTVを数値化している企業もあります。取引期間を通じて企業にもたらす利益として、LTVを算出します。LTVが新規顧客の獲得コストと既存顧客の維持コストの合計を上回ると、収益化していると判断できます。

計算式

LTV = MRR(一顧客あたりの平均月間経常収益)× 売上総利益率 ÷ 顧客月次チャーンレート

LTVの最大化は、すべてのSaaSビジネス提供会社にとって最重要課題の一つです。LTVを最大化するためには、主に以下の2点を達成する必要があります。

顧客単価の向上

アップセルやクロスセルも合わせて、顧客1人または1社あたりの月額、もしくは年額の利用単価を高めます。

継続利用期間の延長

顧客と良好な関係を構築し、できるだけ長い間サービスを利用してもらえるようにしましょう。

上記のいずれにおいても、顧客との良好な関係性の構築がなければ達成することができません。そのため、LTVはカスタマーサクセスの成果が反映されやすい指標です。また、SaaSビジネス自体の重要なKPIでもあるため、カスタマーサクセスのKPIとして欠かすことができません。その他のKPI指標も、このLTVを分解した際の要素となっているものが多く、カスタマーサクセスのKGI(Key Goal Indicator(重要目標達成指標)とする企業も少なくありません。

LTVについては、こちらの記事も参考にしてください。

継続率

継続率は、顧客がサービスを継続利用している比率を表し、サービスの売上安定度に関わる指標です。継続率から、新規加入者獲得による売上・利益増加の見通しを立てられるため、プロモーションの効果予測にも利用できます。

解約率(チャーンレート)

解約率は、言葉のとおりサービスが解約される比率を指します。どのサブスクリプションモデルのサービスにおいても、事業の中長期的な利益安定性を左右する非常に重要な指標です。解約率には、顧客数をベースとしたカスタマーチャーンと、収益をベースとしたレベニューチャーンの2種類があります。事業やサービスの目標値、特性に合わせて使い分けます。

チャーンレートの影響は、ビジネススタートから時間が経過し、規模が大きくなった場合に特に影響が大きくなります。
理由として「解約率が高い = 解約によって発生する損失額が大きくなる」からです。

また、解約によって発生するマイナス分の補填が難しいことも挙げられます。解約によって前月もしくは前年と比較して売上・利益が低下した場合に、利益を維持するためには、新規顧客の獲得によって補填する必要があります。しかし、既にメインのターゲット層を獲得し、一定の規模にまで拡大した企業にとって、新規顧客を獲得し続けることは容易なことではありません。

したがって、解約率の低減を目的としたカスタマーサクセス活動が重要なのです。

チャーンレートついては、こちらの記事も参考にしてください。

アクティブユーザー数

サービス登録ユーザーのうち、一定期間内に1回以上サービスを利用したユーザー数を数値化したものがアクティブユーザー数です。アクティブユーザー数は、ゲームなどのエンタメ系サービスにおいて、事業健全性を判断する1つの目安です。なぜなら、アクティブユーザー数が減少していくことは、ゲームの評価が低く離脱に至っていると判断できるからです。アクティブユーザー数はさらに、1ヵ月の期間で換算する「MAU」や1日のアクティブ数を表す「DAU」などがあります。より短い期間で計測することで、素早い改善施策の立案と実行を目指せます。

アップセル率/クロスセル率

アップセル・クロスセルは、アプローチ方法が異なるものの、いずれも顧客単価の向上を狙う手法です。アップセルは、ベーシックプランからプレミアムプランへのアップグレードなど、より高単価な商材やサービスを購入・契約してもらうことを指します。
クロスセルは、商品レコメンドのように別の関連商材を提案することで、さらなる購入を促す手法です。

アップセルやクロスセルは、成功すれば利益に対して長期的な影響が見込める一方で、失敗した場合には顧客からの評価を下げてしまいかねません。そこで、積極的に進めたい活動でありながらも、慎重にターゲットとタイミングを見極めることが求められます。

しかし、顧客数が増加していくと、各顧客の状態の把握と管理を人的に行うことは難しくなるでしょう。そこで、カスタマーサクセスツールを用いることで、各顧客の利用状況や変化を一律に把握でき、適切な顧客のあぶり出しを高い精度で行いやすくなります。

オンボーディング完了率

オンボーディング完了率とは、顧客のサービス定着の度合いを指します。提供するサービスによってオンボーディングの定義は異なります。例えば、顧客が初期設定を終え、サービスの利用が始まり、導入当初の課題解決を1つ達成したタイミングなど、継続利用の流れにのったと判断できるタイミングで定義しておきます。また、オンボーディングが完了しない顧客は解約リスクが高まるため、顧客の意欲が高いうちに短期間でオンボーディングを完了してもらうことが重要です。そのため、オンボーディングを早期に完了させることをカスタマーサクセスの目標の一つとして位置づけ、KPI指標に取り入れる企業が多いです。

活用度

活用度は、ログイン数や重要機能の利用回数、レポート作成・ダウンロード数といった指標から、顧客のサービス活用度合いを数値化したものです。
活用度から顧客をいくつかのセグメントに分け、セグメントごとにアクション内容を変えたり、支援する優先順位を判断したりします。

顧客満足度(NPS®️)

顧客満足度(NPS®️)とは、Net Promoter Score®︎の略で、顧客ロイヤルティを数値化した指標です。NPS®️を計測することで、顧客サービスへの信頼や好感度を数値化でき、その改善施策につなげられます。

ロイヤルティが高い顧客は、LTVも高いという因果関係があることが一般に知られています。また、サービスや企業に対しての印象の良さや満足度の高さから、良い口コミを行うなど新しい顧客を連れてきてくれる存在です。口コミの高さや知り合いからの紹介は、BtoBビジネスにおいても導入検討の重要な情報源であり、その影響度の高さは無視することができません。
なお、LTVと同様に、顧客ロイヤルティもアップセルなどの他のKPI指標との関連性が高いとされています。そのため、顧客ロイヤルティを測るNPSもKPI指標として採用されることが多いです。

NPSについては、こちらの記事も参考にしてください。

このように、カスタマーサクセスで用いられているKPIはさまざまなものがあります。
いずれの指標も非常に重要度の高いものですが、いきなりすべてのKPIを設定することは現場の混乱や、業務の煩雑化を招くおそれがあることから現実的ではありません。まずは、オンボーディング完了率や活用度、解約率といったKPIの計測からはじめ、組織が成長するに従ってさらに計測するKPIを増やしていくと良いでしょう。

3. カスタマーサクセスのKPIを設定するときの注意点

カスタマーサクセスのKPIを設定するときに忘れてはならない2つの注意点を紹介します。

KGIに沿ったKPIを設定する

カスタマーサクセスのKPIを設定するときは、必ずKGIに沿ったものになっているかに注意しましょう。カスタマーサクセスの最終目標は、KPIの達成ではなくKGIの達成です。
よって、KGIを頂点とした(KGIは複数あっても良い)正しいKPIツリーを構成することが大切です。

KPIを適宜見直す

カスタマーサクセスのKPI設定時の注意点として、設定されたKPIの適正度合いを定期的に見直すことも大切です。顧客の属性や業界や経営方針の変更に伴いKPIを再設定するなど、KGIを達成するためにKPIを適宜見直しましょう。

4. カスタマーサクセスのKPIを達成するためのポイント

複数のKPI指標を達成することは簡単なことではありません。そこで、意識すべきポイントを取り上げます。

カスタマーサクセス以外の部門とも連携する

カスタマーサクセスが持つKPIは、他部門と連携しなければ達成できないものも存在します。
たとえば、解約率の減少には、カスタマーサポート部門や営業部門によるサポートの充実も重要な要素となるでしょう。また、提供する機能やUI(User Interface)への満足度も大きな影響を及ぼします。オンボーディングの完了を早期に行うためには、顧客と最初に接点を持つ営業活動での提案内容やヒアリング内容の共有も求められます。

このような背景をきちんと把握した上で、カスタマーサクセスを行う組織のみで対応できる部分と対応できない部分を切り分けるようにしましょう。そして、連携が求められる目標も達成できるよう、他部門としっかりコミュニケーションをとることが大切です。いずれの部門においても、顧客の成功という最終目標は同じです。

ツールを活用する

KPIを達成していくためには、解約率やアクティブユーザー数などを常に把握し、効果測定を迅速に行うことが必要不可欠です。しかし、これらの数値を人の手で算出するには限界があります。カスタマーサクセスツールの持つ、ダッシュボード機能が有用でしょう。
また、解約率の減少やアップセルの成功には、アクションを起こすべき顧客とタイミングの見極めをより正確に行う必要があります。この見極めにも解約予測やアラート通知機能を持つカスタマーサクセスツールが役立つはずです。
そのほか、情報を一元管理し、他部門との連携がしやすくなるのもツールやシステムを利用するメリットです。

5. まとめ

この記事では、カスタマーサクセスにおけるKPIの重要性や代表的なKPIを解説しました。
多くの企業でカスタマーサクセスへの取り組みがはじまっていますが、闇雲に活動をはじめても、顧客の状況を可視化することができず、貢献度などの成果を把握することが難しいでしょう。そこで重要となるのが、適切なKPIの設定とKPIを可視化する仕組みです。本稿で紹介したKPIをベースに、カスタマーサクセス統合管理ツールなどを活用して効率的に数値化し、活動に活かすと良いでしょう。

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