サブスクリプション型のサービスでは、継続利用率を高めるために注目すべき重要なKPIが存在します。別記事で紹介したチャーンレート(解約率)がKPIに入ることは想像に難くないと思いますが、オンボーディング完了率も同様に重要な指標です。
この記事では、オンボーディング完了率についてその意味と重要性、オンボーディングを成功につなげるポイントについて解説します。
1. オンボーディング完了率とは?なぜ重要なのか?
まず、オンボーディング完了率の定義と重要性を解説します。
オンボーディング完了率とは
サービスにおけるオンボーディングとは、顧客がサービスを導入してから実際に運用を開始し、定着した状態になるまでの期間を指します。具体的にどのような状態をオンボーディング完了とするかの定義やそれを測る指標は、提供するサービスの特徴によって異なりますが、代表的な定義として「初期設定が完了していること」や「顧客内での利用率が何%以上であること」などがあげられます。オンボーディング完了率は、この定義に基づき、以下の計算式で算出します。
オンボーディング完了率 = オンボーディングが完了した企業数 ÷ オンボーディング期間の全企業数
オンボーディング完了率はなぜ重要なのか?
オンボーディング完了率をKPIとして設定する理由は明確で、オンボーディングが完了していない顧客は完了した顧客と比較して、解約(チャーン)のリスクが高いためです。
提供するサービスがどれだけ優れていても、実際に顧客の業務プロセスに取り入れてもらい、活用して貰うことができなければ使われないサービスとして解約の一途を辿ります。これを防ぐための最初の重要なポイントがオンボーディングです。
日々業務に追われている担当者にとっては、導入したサービスを使って新しいプロセスを構築し、それを社内に説明・展開・定着させるには非常に高い労力がかかります。導入した担当者が最も熱量が高いのは契約をした当初であるため、この熱量が高い期間内にオンボーディングを完了できるかが鍵です。
また、オンボーディングは、今後顧客と長期的に良好な関係を築くためにも重要なポイントです。顧客にとって、社内への導入・展開という最も労力を必要とする際にどれだけ担当者が顧客企業の課題や業務を理解し、適切で丁寧なサポートをしてくれたかはその後の信頼関係の基盤になります。また、自社にとっても顧客を深く知る機会となるため、将来的なアップセルの可能性を掴むことができます。
2. オンボーディング成功のポイントは
ここでは、オンボーディングを完了させるためのポイントを紹介します。

ポイント1
自社のオンボーディング完了の定義を明確化する
オンボーディング完了の定義は会社によって異なります。自社サービスの導入から活用に至るまでのプロセスの中で、どこを押さえられていれば解約のリスクが低減するのかを定義し、関係部署間で共通認識を持つようにしましょう。社内でオンボーディング完了について共通の認識が持てなければ、個々の活動が目的から逸れたものになりかねないため、社内での認識を一致させることが重要です。
ポイント2
顧客の課題を正確に理解・把握する
顧客の業務プロセスや課題、サービス導入の目的を正確に把握し、どのようなサポートができるのか検討しておくことが大切です。これらの情報は、営業担当者が営業活動を進める中で把握しているはずですが、顧客との間に認識の齟齬が生じている可能性もあります。そこで、カスタマーサクセスの担当者がオンボーディングを進める前に改めて確認し、認識を一致させるようにしましょう。
ポイント3
オンボーディングを効率化する
サービススタート直後であれば、自社にノウハウを蓄積するためにも可能な限り多くの顧客に寄り添い、丁寧なオンボーディングを行うことが望ましいですが、顧客数が増加している場合には、効率性を求めることも必要です。そこで、以下のような方法を取り入れることで、効率化できないか検討しましょう。
●カスタマーサクセスツールを活用する
カスタマーサクセスツールとは、カスタマーサクセスを支援することを目的に作られたITツールで、ヘルススコアなどで顧客の利用状況を可視化するだけでなく、顧客とのコミュニケーション履歴やタスク管理などが行えます。カスタマーサクセスツールを活用することでオンボーディングを効率化することができます。
●成功事例や活用事例をテンプレート化する
自社サービスの成功事例や活用事例をテンプレート化することで、スムーズにオンボーディングにつなげることができます。ナレッジデータベースのような仕組みを活用して、情報を蓄積・共有していくと良いでしょう。
●顧客の重要度に応じてサポートの程度を決める
顧客の契約内容や今後のアップセルの見込み等を考慮し、顧客ごとにサポート対応の重要度を設定しましょう。それに応じて、どの程度のサポートを行うか、特に訪問などの人的リソースが発生するサポートまで行うかどうかを決めることでオンボーディングに必要なリソースを最適化することができます。
●オンボーディングプロセスのひな型を作成する
オンボーディングのノウハウが溜まってきた場合には、おおよそどのようなプロセスが望ましいかが分かり、プロセスをひな型化し、横展開することが可能になっているはずです。プロセスをひな型化することができれば、顧客ごとにプロセスを一から作り上げる手間を省くことが可能です。
●動画やWebセミナーなどのツールを拡充する
製品やサービスの概要説明や、よく問い合わせのある内容については、動画やWebセミナーのコンテンツを制作しておくことで、顧客に自ら学習して貰うことができます。ITツールなどを活用して、顧客のサポートにおいても「レバレッジ」が働くように設計すると良いでしょう。
ポイント4
オンボーディング完了後も定期的に変化を確認する
定義したオンボーディングが成功したとしても、顧客の課題が変化することで、利用率が低下する場合があります。オンボーディングの完了は重要なポイントですが、自社にとっても顧客にとってもスタートポイントとして位置づけ、定期的に利用率を確認する、ヒアリングを行うなどすることで運用方法の変更やサポートの必要性を確認するようにしましょう。
3. オンボーディングのプロセス
最後にオンボーディングのプロセスを紹介します。オンボーディングに必要なプロセスは、提供するサービスや企業のリソースによって異なります。プロセスの一例を以下にあげますので、参考にしてください。

ステップ1
キックオフ
- 顧客と共に課題を整理し、サービスの利用場面やKPIを設定する。場合によっては、顧客の契約担当者だけではなく、責任者にもヒアリングを行い、課題を整理する。
- 顧客と共にオンボーディング活動のゴールをすり合わせ、TODOリストとスケジュールを作成する。
ステップ2
導入トレーニング
- 顧客企業内の利用ユーザーに対して、基本機能や操作方法を実際の画面を使いながら、直接説明する。
- その際、スムーズな業務、成功に繋がる利用方法やポイントを説明する。
- 補足として、社内教育用のコンテンツを提供する。
ステップ3
進捗確認・クロージング
- キックオフ時に設定した期間、頻度で進捗状況を確認する。
- 課題が出てきた場合には、原因を確認し、必要なサポートを行う。
- 期間の終了時には、振り返りと今後の要望を確認する。
4. まとめ
この記事では、カスタマーサクセスの重要なKPI指標の一つである、オンボーディング完了率についてその定義や重要性、成功のためのポイントを紹介しました。
オンボーディングの成功は、初期の解約率の低下に繋がるだけではなく、顧客と今後長期的な関係性を築く上でも重要です。顧客の課題を理解し、適切なオンボーディングプロセスを作り上げていくことで、解約率の減少と良好な関係性の構築につなげましょう。