サブスクリプション型のサービスでチャーンレートはなぜ重要?カスタマーサクセスで解約率を減少させる方法を解説!

サブスクリプション型のサービスは、月間利用料を顧客がサービスを利用しやすい価格に設定し、長期間サービスを利用してもらうことで利益を出すビジネスモデルです。そのため、サービスの状態を計測する重要なKPIとして、多くの企業でチャーンレート(解約率)が採用されています。
しかし、チャーンレートといってもいくつかの種類があり、「解約率」のみを計測していてはサービスの改善に不十分です。
本記事ではチャーンレートの基本からチャーンが起こる原因、改善方法などを紹介します。

1. チャーンレートとは?

チャーンレートとは「解約率」のことで、一定期間にどれだけの契約が解約に至ったかを表す指標です。

逆にいえば、顧客がどれだけ契約を更新してくれているかを測る指標ともなるため、非常に重要な意味を持ちます。特にSaaSのビジネスモデルで収益を上げるためには、顧客にサービスを利用し続けてもらわなければなりません。解約が多ければ、いくら新規や追加の契約が取れてもなかなか安定した収益の見込みが立たず、プロダクトの成長も難しいでしょう。

チャーンレートは、いくつかの種類に分類することができます。まずはそれぞれのチャーンレートの特徴と計算式について解説します。

カスタマーチャーンレート

カスタマーチャーンレートとは、顧客(カスタマー)をベースとして解約率を算出したものです。BtoBサービスの場合は、企業単位での契約となるのが一般的ですので、ユーザー数ではなく企業数(アカウント数)を顧客数として計算します。カスタマーチャーンレートは以下の計算式で求めることができます。

計算式

カスタマーチャーンレート = 今月解約した顧客数 ÷ 先月の顧客数

レベニューチャーンレート

レベニューチャーンレートとは、収益(レベニュー)をベースとして損失を算出したものです。カスタマーチャーンレートでは、ともに1とカウントされる顧客でも、契約金額の大きい大口顧客なのか、そうでないのかによって、収益に及ぼす影響は大きく異なります。そのため、顧客によって契約金額に差が生じるようなサービスの場合、レベニューチャーンレートの確認も重要です。なお、レベニューチャーンレートでは解約だけではなくダウンセルによる損失も含み、以下の計算式で算出します。

計算式

レベニューチャーンレート = 今月失ったMRR ÷ 先月末のMRR
※MRR(Monthly Recurring Revenue):月次収益

ネットレベニューチャーンレートとは

損失を算出する際、実際には解約やダウンセルだけではなく、アップセルやクロスセルも発生しており、ある顧客による損失を別の顧客によって補填できている場合があります。そこで、アップセルやクロスセル分の金額も合算して以下の計算式で算出するネットレベニューチャーンレートと呼ばれる指標が登場しました。この指標を活用することで、解約やダウンセルだけでなく、アップセル、クロスセルまで含んだ “成績” を把握することができます。

計算式

ネットレベニューチャーンレート =(今月失ったMRR – アップセル分のMRR)÷ 先月末のMRR

チャーンレートの目標値

チャーンレートを導入する際には、目標値を設定しましょう。
目標値は、自社サービスの内容やターゲット顧客の企業規模などによって異なります。一般的には3%程度が目安とされていますが、企業規模が大きい顧客の場合は、1%以下が理想的と言われています。
まずはこれらの値を参考にして目標値を設定し、現在のチャーンレートとの差を毎月確認するようにしましょう。

2. ネガティブチャーンとは?なぜ重要なのか?

ネットレベニューチャーンレートが、マイナスになった状態をネガティブチャーンと呼びます。ネガティブチャーンは以下の理由から、カスタマーサクセスを実現するために非常に重要な指標です。

ネガティブチャーンの重要性

継続利用を前提としたサブスクリプション型のサービスでは、前月の顧客数が今月の顧客数のベースとなります。新規顧客を毎月一定数獲得していけば、総顧客数は右肩あがりに増加します。その際に、チャーンレートも増加傾向であれば、発生している損失額は毎月増大していることを意味します。逆にネガティブチャーンを維持することができていれば、解約数の影響を受けることもなく、収益が大きく増加し、良好な成長を続けられていることを意味します。したがって、収益性を計測するためにネガティブチャーンは非常に重要な指標なのです。

ネガティブチャーンを実現するには?

ネガティブチャーンを実現する方法としては、以下の3つがあげられます。いずれも、顧客とのコミュニケーションを適切に取ることで、提案のチャンスをつかむことができます。

●エクスパンション

既存の契約プランのままで課金額を増加させる、あるいは値上げをすることなどにより、収益を拡大させる方法です。従量課金式など特定の価格モデルを持つサービスのみが取ることができます。

●アップセル

複数プランを提供するサービスにおいて、より金額の高いプランに乗り換えて貰う、オプションのサービスを契約して貰うなどの方法によって、収益を拡大させる方法です。

●クロスセル

他のサービスや製品を提供している場合に、それらも追加で利用してもらうことで収益を拡大する方法です。

アップセル・クロスセルを成功させるには?

アップセルやクロスセルは、収益に対しての影響が大きいため、多くの企業が力を入れて取り組んでいます。ただし、これらを効率的に成功させるにはいくつかのポイントを押さえる必要があります。

顧客ロイヤルティの向上

アップセルやクロスセルの成功のベースには、高い顧客ロイヤルティがあります。顧客ロイヤルティが高い顧客は、自社にとってプラスになる提案であると理解し、前向きに検討してくれる可能性が高いでしょう。
一方で、顧客ロイヤルティが低ければ、押し売りのようにも取られかねません。顧客にこのような印象を与えてしまうとサービスの解約に繋がるおそれもあるため、導入から活用までの一連の流れの中で、顧客ロイヤルティを育成することが重要です。

カスタマーサクセスによる利用状況の把握

アップセル・クロスセルを成功させるには、最適な顧客に最適な提案を行うことが不可欠です。このためには、顧客の利用状況を正しく把握しておかなければなりません。カスタマーサクセスに取り組めば、サービス導入の段階から顧客の目的や課題などを理解しやすくなります。
また、コミュニケーションデータから利用データまで顧客に関するデータを一元管理することにより、最新の状況を効率的に把握したり、チームや関連部門間で共有したりすることができます。

自動的にアップセルを促す仕掛けの構築

顧客の利用状況に応じて、自動的にアップセルを促す仕掛けを組み込むことも効果的です。たとえば、ある機能の顧客の利用回数や利用頻度が増加した際に、関連する拡張機能の紹介をサービス上に出すなどの方法です。
ただし、様々な提示をあまりに頻繁に行うと、逆に顧客からの印象を下げてしまうおそれもあります。ある程度アップセルが成功し、どのような場合に提案を行うと成功しやすいのかを掴んでから導入するようにしましょう。

3. チャーンを引き起こす原因の具体例

新規顧客の獲得数が増加しても、チャーンレートが増加していては収益を最大化することはできません。本章では、そもそもチャーンに繋がる原因は何なのかを確認していきましょう。チャーンが起きる原因はいくつかありますが、代表的な事例を3つ紹介します。

オンボーディングの失敗

チャーンを引き起こす原因として、契約した後、顧客にオンボーディングを重点的に実施していない、またはオンボーディングがうまくできていないことが考えられます。また、なんとなく定性的なものをゴールに設定してしまったり、そのツールやサービスを活用して何を実現したいかが現場レベルで浸透していなかったりする場合も同様です。

簡単なルールだけ伝え、「あとは使いながら慣れていきましょう」といった形で使い始めてしまうと、利用が定着しない可能性が上がり、結果的にチャーンにつながるリスクが高まります。

そのため、最初にツールの使い方や運用に関するルールを丁寧に伝え、どれだけ理解してもらえるかが重要です。顧客一人ひとりがそれらを理解したうえでチームでも共通認識を持ち、運用に乗せることが継続利用の鍵といってよいでしょう。最初のうちは丁寧すぎるくらいに手取り足取り教え、使い方を覚えてもらうことがチャーンの防止につながります。

オンボーディング・活用支援のための取り組み例

特にロータッチ層・テックタッチ層と呼ばれる顧客に対しては、活用や課題を自己解決できるようなツールを提供して効率化を測ることが重要です。これにより、問い合わせの手間が減ると同時に課題解決を即座に行うことができ、解約のリスクを減らすことができます。

・オンラインセミナーによる活用提案と質疑応答
自社の担当者による説明だけではなく、顧客に顧客企業内での活用方法を説明してもらうことも効果的です。

・サービスの利用方法や操作方法の説明動画
数十ページにも及ぶマニュアルを読むことは顧客にとって負荷が重いです。マニュアルだけではなく、動画などを活用して端的に伝えることも必要です。

・導入前~導入後のよくある質問(FAQ)の充実
ユーザーの負担を軽くするためには、よくある質問(FAQ)の充実も考えなければいけません。ユーザーが知りたいことが即座に分かるような内容にすることが、サービス利用の定着や継続につながります。

顧客とのコミュニケーション頻度の低下

営業担当者とのコミュニケーションは、契約に至ったら終わりではなく、契約してからがスタートです。本来は、契約後にカスタマーサクセス担当者へきちんと引き継ぎを行い、コミュニケーションが取れる状態が望ましいといえるでしょう。

しかし契約完了に際して顧客とのコミュニケーション頻度が低下するケースは往々にしてあることです。実際にツールを使ってみた感想、その他の何気ない会話といった顧客とのコミュニケーションは、ツールをうまく活用してもらうための重要な情報源となります。それを放棄してしまうと、チャーンへの対処がますます困難になるでしょう。

また顧客側関係者の部門や役職が多岐にわたる場合、適切にコミュニケーションが取れていないと「誰が」「何を」「いつ」「どのくらいの粒度で使うのか」といったツール利用に関する認識を揃えることが困難になる場合があります。基本的な使い方がわからないままの状況では、たとえ利用を続ける顧客がいても不満が溜まり、契約更新の際に「必要なし」という判断を下されるリスクが高まってしまいます。

サービス利用状況が見えない

ヘルススコアを設定していない場合や、顧客の状況に即した指標になっていない場合についても、顧客の状態が正しく把握できないおそれがあります。ヘルススコアとは、顧客の健康状態を示し、チャーンリスクを客観的に図ることのできる指標です。顧客がどのようにサービスを活用しているか、あるいは活用できていないのかが見えていないと、具体的なアドバイス・改善提案もしにくくなってしまいます。顧客側もツールを使いこなせない現状が打開できずに不満が溜まり、結果としてチャーンを引き起こしてしまうでしょう。

サービスの利用状況を把握できれば、過去チャーンに至ってしまった他社の状況とも比較ができます。逆にヘルススコアが高い顧客の使い方とも照らし合わせることができるため、いずれにしてもサービス利用状況が見えることは大きなメリットといえるでしょう。

4.チャーンレートを改善する方法

チャーンレート増加の原因を把握する

まずは、何がチャーンレートを増加させることに繋がっているのか、原因をしっかり把握することが大切です。以下のようにあらゆる情報を集約して把握し、チャーンに至った顧客に共通する点を確認すると良いでしょう。

●ログデータとヘルススコア

対応策を取るためには、定量的なデータが必要です。そこで、ログデータを元に顧客がどのくらいの頻度で利用しており、どの機能を使っていたか、解約前にどのような変化が生じていたかを確認しましょう。このような変化を簡単に捉えるには、カスタマーサクセスツールのヘルススコア機能を利用すると便利です。

●アンケートデータ

解約フォームにアンケートを設置する、インタビューを行うなどの方法で顧客に対して直接解約理由を尋ねるデータを収集しましょう。

●顧客とのコミュニケーション内容

顧客の担当者とのコミュニケーションの内容や、問い合わせの内容を確認し、どのような兆候があったのかを確認することも大切です。

チャーンレートを改善する方法

前章で述べたチャーンの原因を紐解くことで、チャーンレートの改善につながります。本章では具体的なチャーン改善の方法を紹介します。

オンボーディングを確実に行う

当然ですが、オンボーディングを確実かつ丁寧に行うことが、チャーンレート抑制・改善につながります。最初に顧客自身がツールを便利だと思ってくれれば、その後の利用定着・運用もスムーズに進むでしょう。

加えて、つまずきやすいポイントなどを事前に示しておくことで、壁にぶつかった時の心理的なリカバリーもしやすくなります。業界の知見があり、経験豊富な人が丁寧に教えることができればなお良いでしょう。

また、最初はわからないことが多いはずです。顧客が疑問を抱いた際に気軽に聞ける相談窓口を設置し、万全のサポート体制を敷きましょう。

顧客とのコミュニケーション頻度を一定以上に保ち、顧客の状態を常に把握する

実運用に入ったら、積極的に担当者や顧客とコミュニケーションを取ることもチャーン改善につながります。顧客が多すぎる場合は全員と連絡を取ることは難しいかもしれませんが、部門の責任者や、主要な担当者とはできるだけ定期的にコミュニケーションを取りましょう。

顧客自身もツールを使いこなせるかという不安と、得られる効果への期待が同時に存在している状態です。不安や期待といった感情的な部分も積極的にフォローできると良いでしょう。さらに、利用状況の可視化を仕組みとして構築できるのが理想です。

ザイオンス効果に代表されるように、人間は接触頻度が高い人やモノには好印象を抱きやすい傾向があります。何度も足を運び、こまめに気にかけてくれる相手に悪い印象を持つ人はいないはずですので、定期的に接点を持って顧客との関係性を深めることで、ツールに対する思いがけないコメントや情報なども引き出すことができるでしょう。

サービスの利用状況を定量的に可視化する

先ほど少し触れましたが、感情面でのアプローチだけでなく、ツールやシステムからサービス利用状況を定量的に把握し、可視化していくことがチャーン改善につながります。

数字の動きから読み取れる情報は顧客からの重要なメッセージともいえます。サービスが利用されていなければログイン頻度は下がり、問い合わせ件数も減ります。正常に活用されている場合と比較して利用頻度の傾向を知ることで、早期に具体的な対策がとれるでしょう。

コミュニケーション上では不満を口にしていなかったのに、いざ契約更新というタイミングでチャーンに至ってしまうケースも珍しくありません。具体的かつロジカルにサービス利用状況を把握し、健康状態を定点観測し続けることは、チャーン改善に最も重要なプロセスといえます。

5.チャーンレート改善におけるKPI設定

SaaS事業の場合、一般的にはチャーンレートは3%以内に収まると順調といわれています。自社サービスのプロダクトフェーズや業界・企業規模も考慮しつつ、3%程度を目標値として目指してみると良いでしょう。

チャーンレートにはアカウント数や顧客数を基準とするカスタマーチャーンレートと、収益の損失を基準とするレベニューチャーンレートの2つの指標があります。仮にカスタマーチャーンレートが3%の場合、100社の顧客のうち、3社がリニューアル時に解約することになります。レベニューベースであれば、収益の3%がリニューアル時に減少することを意味します。

企業として、カスタマーの数かレベニュー総額か、どちらに重きを置くのかを決めてKPIを設定していくことが重要です。

上記の2つのKPIについて、チャーンレートを何%以内に収めるか設定し、その上でヘルススコアを測定する際の指標を定め、詳細にチャーン改善の施策に落とし込んでいきます。サービスの活用度合いを測るためのヘルススコアのKPIを正しく設定することはとても重要です。会社特有のKPIもありますが、一般的に多くの企業が取り入れているKPIの例を下記に記載しますので、参考にしてみてください。

  • 契約ライセンス数・利用人数のアカウントデータ
  • 従量課金サービスであればそれに関するデータ・利用料金のトレンド
  • NPSや満足度データ
  • ログイン回数・ログイン人数などの利用データ
  • ウェビナーなどのイベントへの参加データ
  • 担当者とのコミュニケーション頻度
  • 問い合わせ回数

各項目はデータだけあっても意味がありません。このKPIに基準値を設け、その数値と比較することで初めて意味を持ちます。基準値を超えていれば、過去の傾向からチャーンのリスクは低いと判断できますし、逆も然りです。このKPIを設定するプロセスは簡単ではないため、自社の顧客のデータを集めて試行錯誤をしながら、ユニークなKPIを設定できるよう修正を加えることが必要です。

6.チャーンレートの重要性とLTVの関係

これまでチャーンレートの原因や改善方法、チャーン改善のKPI設定について解説しました。では、なぜこれほどまでにチャーンレートがサブスクリプションサービスにおいて重要なのでしょうか。

理由として、チャーンレートとLTVとの密接な関係が挙げられます。LTVとはLife Time Valueのことで、顧客生涯価値を意味します。簡単にいうと、顧客から得られる売上(または利益)の総額のことです。特定の顧客が自社のサービスを使い続けることでどれだけの収益をもたらしてくれるかを意味しており、チャーンレートとは相関関係にあります。

チャーンレートが低ければ低いほど、顧客は提供しているサービスに価値を感じ、その対価を払い続けてくれます。

これは金銭的なことだけに限りません。長い期間使い続けてくれれば、自社に高いロイヤルティを持つ顧客(ロイヤルカスタマー)として、自社サービスの良さを発信してくれることもあります。そして、それが事例化やセミナーへの登壇にもつながるなど、結果的に顧客が顧客を呼ぶ好循環が生まれます。

したがって、チャーンレートを低く抑えるためには、顧客に満足し続けてもらうサービスレベルを保ち、新たな価値を提供し続けることが重要です。結果としてLTVも最大化され、企業の利益も維持・向上できるでしょう。

7. まとめ

SaaS型・サブスクリプション型のサービスにおいて、チャーンレートは利益に直結する最重要指標です。まずは、チャーンレートの概要と算出方法を理解し、自社のKPIに取り入れると良いでしょう。また、何がチャーンレートの増加に繋がっているのかを常に把握して、対策を取ることが必要です。その際、カスタマーサクセスツールを効果的に利用して、ヘルススコアの動きからチャーンの傾向を掴むと共に、事前にアクションを取ることで、チャーンレートの減少に繋げられるはずです。

気をつけるべき点として、ヘルススコアは試行錯誤をしながら作り上げていくことが重要ですが、特定の重要変数の変化をしっかりと見ていくことも欠かせません。なぜならば、ヘルススコアはトータルスコアとしてまとめてしまったタイミングで、その数値に意味がなくなるケースも多いためです。そうした場合の対応策として、多次元の分析は加点式のヘルススコア構築に加え、機械学習のアプローチがおすすめです。

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