カスタマーサクセスでヘルススコアはなぜ重要?主な指標や注意点まで解説!

近年、サブスクリプション型のサービスを提供する企業では、営業・マーケティング部門の役割を細分化し、KPIを管理しながらPDCAを回していく、いわゆる「ザ・モデル型」の営業スタイルが注目されています。このスタイルはすでに多くの企業が実践しており、結果としてその一部であるカスタマーサクセスの認知度も少しずつ上がってきています。

カスタマーサクセスには、サブスクリプションの解約を防ぐアプローチの手掛かりにしたり、リテンション率を上げたりするためのヘルススコアという指標があります。この記事では、カスタマーサクセスにおけるヘルススコアの重要性や指標、注意点に触れていきます。

1. 顧客のヘルススコアとは?

ヘルススコアとは、文字通り顧客のサービス利用における健康状態を表す指標です。
このヘルススコアを有効活用することで、サービスの利用状況をつぶさに計測できるようになるため、カスタマーサクセスを実行する上で不可欠な指標といえるでしょう。ヘルススコアが健全であればあるほど解約のリスクは低く、リテンション率も高いと想定できます。逆に、スコアが悪いと解約のリスクが高いため、早期に顧客フォローを行う必要があります。

2. ヘルススコアを設定するメリット

次に、ヘルススコアを設定するメリットを解説します。

今後の事業企画・展開の参考になる

利用されているサービスの活用度合いが可視化できるため、新サービスのリリースや機能アップデートといった今後の事業企画・展開の優先度を決める際に役立ちます。逆にあまり利用されていない機能があれば、停止の検討材料にもなり得るでしょう。

顧客とのコミュニケーションの材料になる

ヘルススコアを設定すると、カスタマーサクセス活動に限らず、営業担当が顧客と何気ないコミュニケーションをとるためのネタができます。

例えば営業担当が顧客との接点をタイムリーに持ちたい時、サービスの利用状況の細かい変化やトレンドを把握していれば、それらをきっかけに自然なコミュニケーションをとることができるでしょう。

解約の兆候をつかみ、事前にアクションを取れる

正しくヘルススコアが設定されていれば、顧客の行動の変化、特に解約の兆候がスコアに表れます。例えば、ログイン回数が減ってきた、利用アカウント数が減ってきたなどの状態の変化をそれぞれのログデータを確認することなく、スコアの変化のみで把握することができます。

解約の兆候を察知するスピードが上がることで、顧客が解約に至る前に、利用に不明な点があるのか、利用方法に変化があったのか、などの理由を把握し、迅速に適切な対応をすることができます。

対応負荷を減らせる

カスタマーサクセスの担当者が限られたリソースの中で効果を上げるためには、効率的な対応が不可欠です。ヘルススコアを活用することでどの顧客が優先的に対応すべきか、逆にどの顧客がサポート不要なのかを同一の指標から判断できるようになります。したがって、対応負荷の軽減につながります。

アップセルやクロスセルのタイミングを掴める

ヘルススコアを活用することで、より金額の高いプランに乗り換えて貰うなどのアップセルや、自社の他製品・サービスも追加契約して貰うなどのクロスセルのチャンスを掴むこともできます。利用回数や利用人数が高くなってきた、参加したイベントの内容等から顧客が今何を求めているのかを理解できれば、より高機能なプランの提案を適切なタイミングで行えます。

サービスの利用状況を観測し、仮に契約しているデータベースの使用率が90%を超えていたら、まもなく容量が足りなくなることがわかります。また、標準のレポート機能を頻繁に利用していれば、より高度な分析機能をアップセルできるかもしれません。このように、利用状況から顧客のニーズを知ったり、提案したりするきっかけを掴むこともできるでしょう。

3. どのような指標をヘルススコアに設定すべきか

上述した通り、カスタマーサクセスにおいてヘルススコアは重要な役割を持ちます。しかし、効果を上げるためには、自社の目的にあった適切な指標をスコアに組み込む必要があります。

何が適切な指標かについては、企業の提供するサービス内容や形態によって異なりますが、一般的には以下のような指標が用いられています。

契約あたりのログイン回数、ログイン人数などの利用データ

契約あたりのログイン回数、ログイン人数などの利用データは、特に解約率との相関関係が高いと考えられる指標です。ログイン回数やログイン人数の減少からは、サービスの利用率の低下や社内への浸透がうまくいっていないことが予測できます。

このような傾向が生じた場合は解約の兆候と捉え、迅速に対応を行うことが求められます。

NPS®️(Net Promotor Score)や顧客満足度データ

NPS®️とは、製品やサービスを友人や同僚に勧める可能性を11段階で評価して顧客ロイヤルティを測る指標です。顧客体験を評価する指標として用いられ、企業の業績との関連性が高いことがわかっています。

契約ライセンス数・利用人数・従量課金の利用料などのアカウントデータ

サービスへのログイン頻度・利用状況を可視化したデータといった情報は、サービスの利用度合いに直結するため解約率と相関関係が高いと考えられます。したがって、必ず定期的に取得できるような環境にしておくと良いでしょう。

また、従量課金サービスであれば、利用料金のトレンドを見ることで契約プランに対してどのくらいのデータ容量を使用しているかという視点から、サービスの活用度合いを測ることもできます。

ウェビナー等のイベントへの参加データ

自社が開催するイベントへの参加率は、顧客の興味関心度を測ることができます。利用データ上は活用されていないように思われても、ウェビナー等で情報収集をしているか、していないかによって顧客との関係性の良好度は高い場合があります。また、同じ活用率でも積極的にイベントに参加していれば、今後の活用見込みはより高いと判断できます。

担当者とのコミュニケーション頻度

自社のサービスを活用していれば、顧客担当者とのコミュニケーションの頻度も必然的に上がってくるため、これも一つの指標とすることができます。

カスタマーサクセス担当者からのアプローチに対する反応や、顧客側からのアプローチの頻度、決裁権限者とコンタクトが取れているかどうか、などの状態も顧客と良好な関係が構築できているかを測るための重要な指標です。

サポートへの問い合わせ件数・内容

通常、問い合わせの数が多いほどそのサービスを普段から利用していると解釈できるため、サポートへの問い合わせ件数はヘルススコアをチェックする際にも活用できます。また、問い合わせの内容を整理することで、顧客がいま抱えている課題に対してどのように解決したいと考えているか(既存契約の機能で賄えるか、他のシステムと連携させて発展的に活用を考えているかなど)を推測する手がかりとなります。

上記のような情報はヘルスチェックツール(カスタマーサクセスツール)に日々の顧客データを地道にインプットしていくことで可視化できます。また、そのような情報を可視化することで、これまで担当者自身の知見やノウハウに依存していた属人的な情報を抽象化し、共通のナレッジとして活用できるようになります。これらの設定に加え、人では読み取ることができないインサイトなどをAIや機械学習を活用して導き出すことができれば、ヘルススコアの精度もさらに上がっていくでしょう。

4. ヘルススコアを利用する際の課題・注意点

一方で、ヘルススコアを利用する際には課題や注意点があります。

適切な指標を組み込む

最も重要かつ多くの企業で悩まれていることが、適切な指標とは何かを定義することです。目的に直結しないヘルススコアを算出しても成果に結びつくことはありません。

まずは3章で解説した広く使われている指標から導入し、徐々に自社に最適な指標を定義していくと良いでしょう。

数値や指標の数にとらわれない

前章で触れた指標はそれぞれ参考にできる情報ですが、必ずしもすべてを取り入れる必要はありません。あくまで目的はヘルススコアをもとに顧客の健康状態を把握することであり、数値はそのために必要な情報に過ぎないため、管理が煩雑になってしまうのであれば、あれもこれもと様々な要素をすべて設定する必要はありません。

正しく測定できるのならば要素は少ないに越したことはないため、数値にとらわれすぎないよう、設計は出来る限りシンプルにしましょう。

組み込む指標は常に調整を検討する

最初に設定した指標・項目にこだわり続ける必要はありません。実運用に即していない指標があれば、ためらわずに修正しましょう。実情に沿うようにチューニングしていき、正しいヘルススコアが測定できる体制が整えられることが重要です。

またどの企業でも、計測すべき指標に加えて顧客特有のユニークなデータを取り込むことで、さらにリアリティのある情報にすることができます。

管理を簡素化するためにツールを活用する

カスタマーサクセスツールをはじめ、世の中には多くの便利なツールが存在しています。アナログ的な計測の仕方は最小限にとどめ、ツールによって効率的にデータを取得・運用していくことを心がけましょう。

属人性を排除できるため、仮に退職者や異動による引き継ぎが発生した際にも、重要な情報が抜け落ちてしまう事態を避けられるでしょう。

データだけで顧客を理解したつもりにならない

ヘルススコアは、顧客の利用状況の健康度を示す重要な指標ですが、最終的には顧客との実コミュニケーションを通して、リアルな状態を把握する必要があります。

また、ヘルススコアは常に調整が必要なものであるため、絶対的なものではありません。ヘルススコアの精度を高めることは非常に重要ですが、カスタマーサクセス担当者のコミュニケーションとデータを活用したヘルススコアの両方が顧客との良好な関係構築に必要なことを忘れないようにしましょう。

定点観測をする

ヘルススコアはある時点の情報のみで計測できるものもありますが、基準となるスコアと比較することが重要です。

例えば、ログイン頻度ひとつとっても、企業によって利用状況に差があります。1週間に一度のログインであっても、ある企業にとっては十分すぎる利用頻度かもしれません。良好と定めた状態と比べてどうなのか、平均値に比べてどういったスコアのトレンドになっているかに注目すべきです。

したがって、同じ間隔で観測していき、1週間平均、1ヵ月平均、3ヵ月平均とトレンドを見定めていきましょう。

5.ヘルススコアを設定する場合のステップ

ヘルススコアを設定する際には、大きくカテゴリーを分け、以下のステップで進めていくと良いでしょう。

  1. 顧客の正常な状態を定義する
  2. 指標を設定する
  3. ヘルススコアのスコアリング方法を決定する
  4. 閾値とアクション内容を決定する

実際に運用しながら上記のPDCAを回していき、設定した指標を柔軟に修正していくと正しいヘルススコアが取得できるようになるはずです。

6. まとめ

この記事では、カスタマーサクセスにおけるヘルススコアの重要性や指標、注意点に触れてきました。効率的なカスタマーサクセスの成功には、ヘルススコアを正しく設定し、顧客と認識を合わせながら運用することが重要です。

ただし、ヘルスコアは大切ですが、トータルスコアとしてまとめてしまった際に、ヘルススコアが意味を持たなくなる場合があるため、全体を見つつバランスを取るべきでしょう。企業やサービス内容によって設定すべき項目は異なり、また、カスタマーサクセスに向けた活動を進めていくなかで、取り入れるべき項目、外すべき項目も変遷していきます。

まずはスモールスタートとしてヘルススコアを取り入れ、小さな成功体験を積み、運用の中で微調整していくと良いでしょう。

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