カスタマーサクセスは日本ではまだ聞き慣れない方も多く、既存の業務、特にカスタマーサポートとの違いがわからないという声もよく耳にします。
そこでこの記事では、カスタマーサクセスの目的や求められる役割について、混同されがちであるカスタマーサポートと比較して解説します。
目次
1. カスタマーサクセスとは?サブスクリプション型のサービスにおいて重要視されるのはなぜか?
カスタマーサクセスとは、顧客の成功体験を導くことで顧客と自社の双方に利益をもたらすという考え方・活動を指します。サブスクリプション型のサービスの台頭によって、さまざまな企業で取り入れられるようになりました。サブスクリプション型のサービスは、売り切り型の製品やサービスとは異なる対応が求められるため、カスタマーサクセスを取り入れて顧客との関係を最適化することが目的です。
具体的には、下記の2点の理由からカスタマーサクセスが重要であると言われています。
解約率を低減させることが、新規顧客獲得よりも重要なため
サブスクリプション型のサービスでは、月間利用料を低く抑えることや、システム構築費を省くことで、導入の障壁を下げています。その一方で、提供企業にとっては一定期間以上、継続利用されなければ十分な利益が発生しない仕組みとなっています。契約期間1ヵ月のみで利益が発生するようなケースは、ほとんどありません。従って、毎月多くの新規顧客を獲得しても、同じ数だけ解約が発生していれば、損益はどんどん悪化していきます。サブスクリプション型のサービスにおいては、解約率を低減させることが新規顧客獲得よりも重要です。
顧客一人あたりの利益を増加させることが重要なため
一般的に、売り切り型の製品やサービスは、1点販売するごとに利益が出るビジネスモデルです。一方、サブスクリプション型のサービスは、1契約ごとに利益を出すのではなく、一定数以上の契約が積み重なった段階ではじめて利益が出るビジネスモデルです。
したがって、特定割合の既存顧客が上位プランを利用することによって、より多くの利益を確保していくことが重要となってきます。
売り切り型 | サブスクリプション型 | |
---|---|---|
売るもの | 所有権 | 利用権 |
料金体系 | 都度支払い | 継続的な定額支払い |
メリット |
一度に多くの利益が得られる 利益が出るまでに時間がかからない |
安定的な利益が見込める 新規の導入障壁を下げられる |
デメリット |
利益が安定しない 常に新規獲得が必要 |
爆発的な利益が見込めない 利益が出るまでに時間がかかる |
2. カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いは?
前述した対応は、カスタマーサポートではカバーできないのでしょうか。
ここでは、カスタマーサクセスとカスタマーサポート、それぞれの共通点と目的・役割の相違点について解説します。
カスタマーサクセス、カスタマーサポートの共通点
●顧客と良好な関係を築くことが目的
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、アプローチ方法は異なりますが、顧客と接点を持ち、顧客と良好な関係を築くことが大目標であることは共通しています。
●顧客の声を拾い、他部門と連携して製品・サービス改善に繋げる
どちらも顧客と直接の接点を持ち、顧客の声を拾い上げることができます。使いにくい点やわかりにくい点などの不満や要望を吸い上げて開発部門や営業部門などにフィードバックを行い、製品・サービスの改善に繋げる重要な役割を持ちます。
●ツールを活用し、業務負荷を低減することも必要
どちらの業務も対応する顧客の数が多くなる傾向にあり、そのため業務負荷も膨らみがちです。チャットツールや動画解説、コミュニティの開設などのツールやシステムの利用で業務負荷を低減します。
カスタマーサクセスの目的や役割
●能動的な働きかけを行い、顧客の成功を支援
最も大きな違いは、働きかけを能動的に行うかどうかです。カスタマーサクセスでは顧客の成功が自社の成功に繋がるという考え方の下、顧客企業にあったサービスの利用法などを能動的なアプローチによって提案・解決します。
●全顧客が対象
対象となるのは問い合わせを行ってきた特定の顧客ではなく、全顧客です。ただし、一律に同様の対応を行うことは不可能なため、優先順位をつけた対応が必要です。顧客の優先順位による対応方法の違いについては、こちらの記事も参照してください。
●顧客との良好なコミュニケーションを継続することが目的
カスタマーサクセスでは、顧客と継続的なコミュニケーションを持続させ、成功に向けて常に伴走することを目的とします。特に、導入時期には顧客と多くの接点を持つことが良いとされます。早い段階から関係性を構築すると同時に、初期の離反を防ぐことができます。
●アップセルやクロスセルなど、各顧客の売上アップに直接かかわる
カスタマーサクセスでは、顧客とのコミュニケーションの中で、アップセルやクロスセルの機会を掴み、提案を行います。売上・利益の面も含めて、顧客に対して能動的に関わります。カスタマーサクセスで利用するKPI指標については、こちらの記事も参照してください。
カスタマーサポートの目的や役割
●顧客から問い合わせを受け、迅速に解決に導く
カスタマーサポートは、顧客からの疑問点や不明点、製品不具合への対応を迅速に行うことを役割としています。顧客に対して、自ら能動的に動くことはありません。
●問い合わせを行った顧客のみが対象
カスタマーサポートでは、対応する顧客は自ら問い合わせを行ってきた顧客に限られます。従って、問い合わせをしてこない顧客については、疑問点や不明点の有無などの一切の情報を持ちません。
●顧客からの問い合わせを減らすことが目的
カスタマーサポートでは、疑問点や不明点に迅速に対応すると同時に、操作・操作説明書をわかりやすくする、不具合を解消するなどの対策を講じることで問い合わせ数自体を減少させることに重きを置きます。従って、特定の顧客や特定の操作をする顧客との接点が多いことは、そこに未解決の課題があるということを意味し、問題点として認識されます。これは顧客とコミュニケーションを継続的に取ることを目的とする、カスタマーサクセスとは大きく異なります。
●顧客は満足度で評価し、売上の観点はない
カスタマーサポートでは、顧客に対して販売面の提案を行うことはほとんどありません。活動の評価も、問い合わせ件数や顧客満足度を指標とし、顧客の売上に対しての指標を持つ企業は少ないでしょう。
3. カスタマーサクセスは専門部隊が必要?既存の組織で対応するためには
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、役割や目的に明確な違いがあり、取り組む姿勢も大きく異なります。そのため、新しくカスタマーサクセスに取り組む場合には、既存のカスタマーサポートとは業務の線引きを行うことが必須です。
既存のカスタマーサポートでカスタマーサクセスを担う場合のリスク
●チャーンレート(解約率)を改善しづらい
カスタマーサクセスに取り組む最も大きな理由の一つは、チャーンレートの減少でしょう。サブスクリプション型のサービスでは、サービスの継続利用率が損益に直結するため、チャーンレートの改善は最重要課題です。そして、チャーンレート改善のためには、解約の兆候を掴み、能動的にアクションを取ることが必要です。
解約の前にサポート部隊に問い合わせや苦情などの連絡を入れてくる顧客は稀です。顧客からの問い合わせに真摯に対応することは必然ですが、自らアクションを取らない顧客に対してもフォローを行わなければ、チャーンレートを改善させることはできません。
●オンボーディングなどサブスクリプション型ビジネスで重要なプロセスを押さえることが困難
サブスクリプション型のサービスは、欧米では既に市場が出来上がっている分野です。そのため、多くの知見が存在しており、特有のプロセスや考え方があります。オンボーディングと呼ばれる導入初期のサービス定着率もその1つです。
顧客と共に課題を整理することから始まり、導入トレーニングまでサポートするこのプロセスは、コンサルティングや営業などに近い要素を持ちます。既存のカスタマーサポートの延長で行うには難しい部分です。
●アップセル、クロスセルなどのLTV最大化につながる活動がしづらい
顧客の契約金額を増加させるアップセルやクロスセルは将来の収益への寄与率が高く、多くの企業が力を入れて取り組んでいる活動です。ただし、顧客自らが契約金額の増加を申し出ることは多くないため、アップセルやクロスセルのチャンスは自社側で掴む必要があります。
かゆい所に手が届くような提案は、顧客のロイヤルティを増加させることにも繋がります。
●顧客の要望を拾いきれない場合がある
顧客の要望をサービスに反映し、より長い間、より簡単に使って貰えるようにサービスの改善を続けることはサブスクリプション型ビジネスにおいて非常に重要です。カスタマーサポートへ問い合わせをしてくる、自社への期待値が高い顧客の要望を拾い上げることは重要ですが、自ら問い合わせをしてくる顧客は全体の一部にとどまります。
また、問い合わせをしてきた顧客が必ずしも自社にとって優先度の高い顧客、すなわち契約金額が高い顧客とも限りません。ハイタッチ層と呼ばれるLTVの高い重要な顧客の要望も拾わなければ、損益改善に繋がる活動としては不十分です。
このように、上記のような対応が不十分になると、カスタマーサクセスに真摯に取り組む競合他社との差が広がってしまいます。それによって、自社からの乗り換えのリスクが高くなります。カスタマーサクセスがサブスクリプション型ビジネスの要であることはぜひ理解しておいてください。
既存の組織でカスタマーサクセスに取り組む方法
たとえ少人数の組織になってしまう場合でも、カスタマーサクセスを担当するチームは既存の組織とは別の組織とすることが望ましいでしょう。
ただし、リソースが不足しているなどの理由で、既存の組織内で対応せざるを得ない場合もあるかもしれません。その場合には、一度に複数のことを達成しようとせず、まずは仕組みを構築することを目標とし、小さな成功を収めるのがよいでしょう。その際、以下を考慮してください。
●担当者を分け、業務を完全に切り分けること
一人の担当者が、能動的な対応と受動的な対応という異なる対応を行うことは困難で、効率も良くありません。そこで、同じ組織内でもカスタマーサポートに取り組む担当者と、カスタマーサクセスに取り組む担当者を分けることが重要です。
カスタマーサクセスには能動的な対応が必要ですが、そこでは顧客のデータを活用することが可能です。顧客のデータを活用することで、カスタマーサクセスの業務負荷を抑えるようにしてください。
●カスタマーサクセス独自の指標で活動の目的を設定し、成果を確認すること
カスタマーサクセスには独自のKPI指標が存在します。新しい活動が正しく実行できていることを確認するために、正しいKPI指標を設定するようにしてください。KPI指標の設定後は、KPIを達成するために必要な項目を細分化し、取り組むべき業務に優先順位をつけるようにしましょう。
●カスタマーサクセス、カスタマーサポートの両方の業務負荷の低減に取り組むこと
カスタマーサクセスツールの導入
ヘルススコアと呼ばれる顧客の健康状態を管理する仕組みや、解約の兆候を知らせる機能を搭載しています。これにより、能動的な対応を迅速に行うことができます。また、カスタマーサクセスの業務に必要なデータの一元管理や可視化も行うことができます。カスタマーサクセスを軌道に乗せるためには必須のツールです。
サポートページや動画の拡充
ユーザーの自己解決を促す仕組みを拡充させることは、サポートへの問い合わせを減らすと同時に、オンボーディングを成功させることにも役立ちます。
顧客ごとに対応を変える
顧客をセグメントに分け、対応にメリハリをつけることで業務負荷を抑えることができます。リソースが限られる場合には、あらゆることに正しく優先順位をつけられるかが重要です。なお、顧客をセグメンテーションするプロセスは顧客理解にも繋がります。
4. まとめ
サブスクリプション型のサービスには、解約率の減少や利益改善のためにカスタマーサクセスが重要です。カスタマーサポートとカスタマーサクセスは全く異なる機能を持ち、取り組みの姿勢や指標も大きく異なります。カスタマーサポートの部隊でカスタマーサクセスの役割に対応することは非常に困難です。
したがって、可能な限り専門部隊で対応を行い、確実に成果に繋がるような体制を作りましょう。ただし、ツールの活用や優先順位付けによって、既存の組織構成でもカスタマーサクセスの仕組みを作ることは可能です。
この記事を参考に、まずは小さい成功を収めることを目指してみてください。