カスタマーサクセスは、サービスの継続率や顧客満足度の向上に寄与する取り組みです。サブスクリプションビジネス市場の成長によって、顧客に対してより多くの価値を提供することが求められており、必然的にカスタマーサクセスの重要度も増しているといえるでしょう。
本記事では、SaaS型ビジネスモデルの特徴と、それに欠かせないカスタマーサクセスとの関係について解説します。
1.SaaSのビジネスモデルと課題
まず、SaaSのビジネスモデルの特徴と課題について整理します。
SaaSのビジネスモデル
サブスクリプション型のSaaSビジネスは、従来の「売り切り型」ビジネスと異なり、以下のような特徴があります。
「物の所有」ではなく「成果」に対して対価が払われる
利用者がSaaSを契約する理由は、物の所有欲や機能へのニーズではなく、SaaSの利用を通して自社のビジネスや自身の生活を改善したいためです。
利用料として収益が発生する
売り切り型ビジネスにおいては販売時に一括して収益が発生しますが、SaaSビジネスでは月額や年額などの形で継続的に収益が発生するのが一般的です。
豊富にデータを集められる
SaaSはサービス導入後、期待する成果を得てもらうために顧客と長期的な関係を築くこととなります。利用者側も、おおよそ半年以上の利用を前提として導入し、その期間の効果を検証したうえで、利用の継続可否を判断するケースが多いでしょう。そのため、顧客のデータを継続的かつ豊富に収集できる特徴があります。
SaaSビジネスにおける課題
一方で、SaaSビジネスには以下のような課題やリスクもあります。
解約のハードルが低い
SaaSは初期コストや導入負荷が低いことから、顧客が成果を感じられなければ解約や競合製品への乗り換えが比較的簡単に発生してしまいます。
1契約あたりに得られる金額が低い
課題①の解約リスクにも関連しますが、月額課金制が一般的なSaaSは1契約当たりの金額は低くなります。そのため利益が出るまでの期間も長期(およそ半年〜)にわたる傾向にあります。
顧客数が増えやすく、手が回らなくなる
売り切り型と異なり、契約に至りやすく顧客数・契約数が増えやすい点に加え、契約後の顧客との関係が強いまま継続する点もSaaSの特徴です。つまり、一度契約したら終わりではなく、契約後も継続して顧客との関係性を構築し続ける必要があります。
一方で顧客数・契約数も増えやすいため、サービスが成長するにつれすべての顧客に対して細かくコミュニケーションをとることが難しくなっていくでしょう。
特に従来のように営業が顧客フォローも対応するのでは、後のフォローが疎かになってしまう事態も発生します。
営業は新規契約を獲得することが主な役割ですので、リソース面から考えても営業担当のみで利用後のフォローまでを担当するのは難しいでしょう。
顧客とのコミュニケーションが希薄になってしまうと、気づいた時には既に解約検討のフェーズにいたということも珍しくありません。
2.SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスの必要性
SaaSビジネスの課題解決に有効な取り組みが、カスタマーサクセスです。ここでは、SaaSビジネスにおいて、なぜカスタマーサクセスが必要なのかを解説します。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは、顧客が抱えている課題の解決や目標達成など「顧客の成功」につながる支援を、サービス提供側が能動的に行う取り組みです。
従来、ビジネスを改善して前進させていく取り組みは、顧客側で行うものだと認識されていました。
しかし、SaaSビジネスの特性上、サービスを利用し続けてもらうためには、「顧客にサービス導入の成果を実感してもらうこと」が必要です。
そのため、サービス提供者側から積極的にサービスの利用を働きかけ、自社のサービスを通じて顧客のビジネスを成功に導くカスタマーサクセス活動が求められるようになっています。
カスタマーサクセスによるSaaSビジネスの課題解決
SaaSビジネスにおけるさまざまな課題を、カスタマーサクセスはどのように解決できるのでしょうか。
課題①「解約のハードルが低い」の解決
前述の通りSaaSは売り切り型に比べて契約に至りやすく、代わりに解約のハードルも低いことから、顧客の解約率(チャーンレート)を低減させることがカスタマーサクセスの目標の一つとなります。
そのためカスタマーサクセスの施策として、特に解約に至りやすいサービス導入初期における利用定着のための活動(オンボーディング)や、ストレスなくサービスを活用し、成果に繋げるためにサービスへの熟達(アダプション)を支援するなど積極的にフォローを行うことで、解約を防ぎ、契約継続につなげます。
参考記事:解約を防ぐためのカスタマーサクセスの重要性とその施策
課題②「1契約あたりの金額が低い」の解決
契約当たりの単価が高くないSaaSビジネスにおいては、長期的にサービスを利用してもらい、かつ必要に応じて適切に契約の単価を上げることで得られる収益を最大化することが必要です。
前項にて、解約率がカスタマーサクセスの目標の一つであると説明していますが、カスタマーサクセス最大の目的は、顧客のLTV(顧客生涯価値)を最大化することです。LTVを最大化するために、解約率を下げることが重要な要因となるため、必然的に解約率も重要指標として設定されることが多いのです。
解約の抑止に加えて、契約単価を向上させるためにアップセルやクロスセルといったエクスパンション(利用拡大)を目指すこともカスタマーサクセスが担う役割の一つです。
自社製品に価値を感じてもらった顧客に対して継続的に接触を続け、適切なタイミングでクロスセル・アップセルを狙うことで契約の単価を向上させ、LTVを高めていきます。
参考記事:SaaSビジネスにおいて重要とされるLTVとは?計算方法や向上施策を解説
課題③:「顧客数が増えやすく、手が回らなくなる」の解決
営業だけでは手が回らない契約後の利用についてカスタマーサクセスが担当することで、SaaSビジネスで最も重要な利用の継続という点をカバーすることができます。サービスの利用状況を定点観測しつつ、どの顧客を重視すべきかの見極めや、各顧客が現在どのようなフェーズにいて、今後どのような活動を行えば目標を達成できるかを、データ活用により検討します。顧客の利用データを収集し、アプローチが必要な顧客を見つけるための仕組みは、課題①②にも通じる重要なポイントです。
参考記事:カスタマーサクセス活動における顧客データの利活用とは?
SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスの必要性
このように、カスタマーサクセスはSaaS企業が抱えるさまざまな課題を解決できる取り組みです。顧客にとってかけがえのないパートナーになるために、カスタマーサクセス担当者が行う伴走支援は、SaaSビジネスにおいて欠かせません。
3.SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセス施策のポイント
最後に、SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセス施策のポイントを整理します。
KPIを定義し可視化する
カスタマーサクセスの取り組みは、短期的には事業への貢献度が見えにくいといえます。事業への貢献度を可視化するために、KPIを設定して達成状況を確認するとよいでしょう。具体的には、以下のようなKPIが挙げられます。
- LTV (Life Time Value / 顧客生涯価値)
:顧客がサービスを契約してから解約するまでにもたらす売上の合計 - 継続率(リテンション)
:顧客がサービスを継続利用している比率 - 解約率(チャーンレート)
:サービスが解約される比率 - オンボーディング完了率
:サービスを運用にのせることができた割合 - アップセル・クロスセル率
:アップセルまたはクロスセルに至った比率
参考記事:カスタマーサクセスを成功に導くために設定すべきKPIとは
データを活用した自動化を検討する
カスタマーサクセスチームも、人的リソースには限界があります。そこで、データを活用した自動化を検討しましょう。ただし、データ活用には一定の作業負荷がかかります。必要に応じて、カスタマーサクセスツールを導入し、業務の効率化を図ることをおすすめします。
参考記事:【チーム規模別】カスタマーサクセス活動のよくある課題とツールを活用した解決方法
4.まとめ
本記事では、SaaSのビジネスモデルに欠かせないカスタマーサクセスについて解説しました。国内においては比較的新しいカスタマーサクセスですが、おもに北米では価値のある取り組みとして認識されています。今後は国内でも導入する企業が増え、広く普及していくでしょう。
SaaSビジネスにおける課題を解決し、収益を最大化させるために、顧客を成功へと導くカスタマーサクセスの取り組みをぜひ検討してみてください。