解約を防ぐためのカスタマーサクセスの重要性とその施策

カスタマーサクセスの実現に向けて努力をしていても、解約は少なからず生じてしまうものです。顧客との関係改善やデータ活用・ツールの導入など対策はありますが、契約更新率を100%にすることは、どんなに優秀なCSMをもってしても至難の業といえるでしょう。

そこで、100%の契約更新率を実現できなくとも、見方を変え、「なぜ解約が起きてしまうのか」「できるだけ解約を防止するためにはどうしたら良いか」といった点に焦点を当ててみると違ったアプローチが生まれてくる可能性があります。

本記事では、カスタマーサクセスの重要性に触れつつ、解約を防ぐ方法と施策例を紹介します。

1.カスタマーサクセスにおいて解約を防ぐためには

はじめに、カスタマーサクセスの視点から解約を防止するためのポイントを3つ解説します。

a.顧客の成功へのコミットメント

何よりも、顧客にとっての存在感・必要性を高めるため、顧客の成功へのコミットメントは解約を防止するための最善の方法です。カスタマーサクセスの原則として、契約した顧客のビジネス目標を定め、その目標達成に向け徹底してやり切ることが挙げられます。

自社のサービスやフォローによって顧客のビジネス目標が達成できれば、顧客にとっての自社の必要性が高まり、解約のリスクが限りなく低くなります。契約の更新だけでなく、アップセルやクロスセルの可能性も見えてくるでしょう。
そのような顧客へのコミットメントの実現には、「顧客が助けを必要としているシグナルを可能な限り可視化する」ことが重要です。
そのためにはまず、適切なカスタマーサクセスツールを導入し、業務の可視化・効率化から始めてみましょう。

b.顧客への徹底的なフォロー

フォローといっても、場当たり的に顧客をフォローするだけでは意味がありません。顧客の視点に立ち、長期的な顧客の成功に向け真摯に向き合ったうえで、適切なフォローを実施することが重要です。
例えば、自社が提供しているツールやサービスなどが役立つ領域において、顧客がこれまで気づかなかった業務プロセス上の改善について、自社サービスを絡めて提案できれば、そのサービスや自社に対して顧客の期待を超える付加価値を提供することにつながります。

c.常に定量的に顧客を把握

できるだけ定量的な情報をもとに顧客の状況を把握し、データをもとにカスタマーサクセスを実現することも重要です。顧客の置かれている状況を、数字を使って管理すると、常に客観的な観察眼を持って顧客と接することができるでしょう。

結果として、具体的かつ論理的な根拠をもとに、最適な施策を選択・展開できるようになります。

解約を防ぐミッションを背負っているカスタマーサクセスの基本を理解するためには、下記の記事が参考になります。

必要なデータが一覧化され、それらがすぐに参照できる状態を作るためには、まず自社の顧客データ基盤の整備が必要です。

業務効率化・可視化の観点からも、カスタマーサクセスにおける顧客の情報は一つのプラットフォーム上で閲覧・編集できる状態が理想といえるでしょう。

2.カスタマーサクセス以外の視点における解約防止アプローチ

解約を防止するためには、カスタマーサクセスに焦点が当てられますが、カスタマーサクセス活動以外で未然に解約を防ぐアプローチも可能です。

a.自社にとって正しい顧客へアプローチする[顧客のターゲティング]

カスタマーサクセスに関する書籍「カスタマーサクセス―サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則」によると、解約の90%は契約した時にすでに決まっていると述べられています。

つまりプリセールスの提案段階で「然るべきお客さま」に対し、「適切な提案を」していない場合、その時点でカスタマーサクセスの実現は困難になるというわけです。

ここで表現されている「然るべきお客さま」とは、プロダクトマーケットフィット(企業が顧客の課題を十分に満足させる製品やサービスを開発・提供し、それが適切な市場・顧客に提案されており、顧客に受け入れられている状態)になっていることです。

つまり、自社の製品やサービスが効果を発揮する業界や顧客に正しく提案されている、推奨される活用方法で使われている、などいくつかの条件を満たしている必要があります。

言い換えれば、アプローチすべき顧客の見極め=ターゲティング・セグメンテーションを正しく行い、自社のサービスがあるべき形で利用されている状態が作られていることが前提であるということになります。

その上で、前段で紹介したようなカスタマーサクセスによる解約防止策に取り組むと良いでしょう。

b.顧客の声を反映し、良いサービス・プロダクトを作る[サービスの品質向上]

よく練られた製品・サービスと、高いレベルの顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)を提供できているかどうかも解約に大きく関係しています。良好な顧客体験を提供するためには、顧客からのフィードバックを社内に反映させる仕組みをつくることが効果的です。そして常に顧客の声に耳を傾け、自社の製品・サービスをより高度なものへと拡張していく継続的な取り組みが求められます。

契約後の顧客に対し、良好なCXを提供するためにカスタマーサクセスができることは何か、カスタマーサクセスの実施ステップについて記載されている以下の記事を参考にしてみてください。

3.BtoC向け:解約を防ぐカスタマーサクセスの具体的な施策例

BtoCの顧客に対するカスタマーサクセスのアプローチは、先ほど少し触れた顧客体験 (CX)と顧客満足(CS)が鍵を握っています。

a.顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)の向上

一般的にカスタマーエクスペリエンス(CX)とは、製品やサービスを通じて得られる顧客体験のことを指します。サービス利用中のCXを最大限向上させることで、期待を上回る成果や感動体験を顧客に提供することができます。

特にBtoCの場合、このような体験が重視される傾向が強まっているといえるでしょう。その結果として、契約の継続やリピートに繋がり、解約のリスクが減少します。BtoCのサービスの場合、「成果=感動体験」であることも多く、BtoCのカスタマーサクセスではCXの向上が重要な意味を持っているのです。

b.顧客満足(CS:カスタマーサティスファクション)の重視

製品やサービスを何度も利用する顧客は、その製品・サービスに安心や満足感も求めています。十分なサービスを提供することで解約の防止につながり、リピーターになってくれるでしょう。感動体験を味わえるのはすばらしいことですが、心を揺さぶられるような得難い体験だけではなく、いつ利用しても変わらない安心感や日常を提供してくれるかどうかも、顧客にとっては非常に重要な意味を持っています。

解約を防止するためのアプローチ方法について、下記の記事が参考になります。

4.BtoB向け:解約を防ぐカスタマーサクセスの施策例

本章では、BtoBの顧客に対して解約を防ぐためのカスタマーサクセスアプローチについて解説します。

a.カスタマーサクセス業務の仕組み化と優先順位づけを意識する

BtoCの場合、どちらかというとCXやCSといった顧客心理に寄り添った訴求が重要とされています。BtoBの場合、個人の体験や心理といった感情的側面ももちろん重要ですが、それよりも組織全体に対する寄与といった業務や財務への貢献度が重視されます。

そして自社サービスの機能を十分に使いこなしてもらうためには、顧客の属性や規模に応じて、しっかりと仕組み化され、様々なパターンに対応できるカスタマーサクセスの姿勢が求められます。顧客が感じている問題を解決できるよう、スムーズかつ快適に環境を整えていきましょう。

また、顧客の属性や収益性・ロイヤルティなどを考慮し、いわゆるハイタッチ層・ロータッチ層・テックタッチ層に分類して対応の優先順位を決めていくことも重要です。

タスクの多いカスタマーサクセス業務は、顧客数が増えていくにつれ対応が後手に回ってしまうことも珍しくありません。ある程度、顧客数が増えてきたら顧客の優先順位をつけることを意識する必要があります。

カスタマーサクセスツールの詳細については以下の記事を参考にしてみてください。

b.TTV(Time to Value)の理解とオンボーディングの実施 

BtoBの場合、サービスの価値をどれだけ早く感じてもらうことができるかも非常に重要になってきます。

新しいサービスやツールの導入は、慣れるまでは利用側にとって負担やストレスになってしまうことも多く、サービスの価値を正しく伝えることができないまま解約になってしまうことも珍しくありません。

このような事態を防ぐために、TTV(Time to Value)の理解とオンボーディングの実施が必要です。

TTVとは顧客がサービスの価値を感じてもらうための時間のことです。

上述の通り、導入初期は顧客がサービスに対してストレスを感じやすい期間です。そのタイミングで離脱されてしまうことを防ぐため、いかにしてサービスの価値を早く伝えるかを考えるようにしましょう。TTVを出来る限り短くすることが、解約を減らすためのポイントの一つです。

オンボーディングは、契約後、導入初期のフェーズにおいて顧客がサービスを使いこなすまでにサービス提供側が使い方の説明や施策の提案といったやりとりを通じて伴走姿勢を取り、サービスの利用定着を促進する取り組みのことをいいます。いまやカスタマーサクセスを行う多くの企業で実施されている施策です。

オンボーディングの実施に際して気をつけるべきポイントとしては、「形骸化していないか常にチェック」することが挙げられます。特にサービスの初期設定が完了した後、なんとなく使い始めるという流れになってしまうと、やがて放置されて解約につながってしまう可能性が高くなってしまいます。

オンボーディングの目的の一つである「サービスの効果・有用性を正しく実感してもらう」ことを意識することが大切です。

導入初期はTTVの短縮と自社サービスの利用定着を意識しながら、顧客のフォローを実施していきましょう。

C.担当者だけでなく決裁者にも定期的なフォローを行う

BtoBの場合、オンボーディングが完了した後も、定期的に顧客と接点を持ち続けることが必要です。

特に、BtoBではサービスの導入によって現場が求めている解決と決裁者(経営層)が考えている解決にズレが存在していることも多々あります。

現在の業務を楽にしたいという現場担当の視点、P/L(損益計算書)にどのようにインパクトを与えるかという、いわゆる財務貢献を考える決裁者の視点を理解しつつ、サービスの利用によって現場に与える影響と、それが財務諸表にどのように影響するかを筋道立てて説明できるようにすることで、サービスの継続利用につなげることができます。

そのためには現場担当者と決裁者のそれぞれと定期的に接触し、顧客が求めていることをすべて満たせるようなフォローを行いましょう。

5.まとめ

本記事では、解約を防ぐための方法・施策について解説しました。サブスクリプション型のビジネスを行っていると、定期的に訪れる契約更新のタイミングは企業にとって非常に神経質になる出来事です。契約更新を磐石なものとし、解約を防ぎ安心して契約更新時を迎えたいものですが、そのためには顧客に価値を提供し続けることが何よりも重要です。方法はさまざまですが、本記事を参考に基本的なアプローチを実践しつつ、解約の防止が最小限に収まるヒントになれば幸いです。

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