LTV(顧客生涯価値)の最大化は、サブスクリプション型ビジネスを成功に導くための重要施策です。LTVを最大化するための方法はいくつかありますが、今回は「クロスセル」に着目して解説します。クロスセルは、アップセルと同じくLTV最大化に貢献する手法です。クロスセルは、カスタマーサクセスを取り入れることで成功率を高めることができます。ここでは、クロスセルのメリットや課題、成功のための視点などを解説します。
1. クロスセルとは
クロスセルとは、顧客に対して「すでに利用しているサービス、購入した製品とは別の製品やサービスをすすめる営業手法」です。アップセルと同じく顧客の「数」ではなく「質(単価)」をあげ、LTVを最大化することが目的になります。サブスク型ビジネスでは特に重要な施策のひとつです。
一般的には、適切なタイミングでのレコメンド(推奨・推薦)などが挙げられるでしょう。無料プランや低額プランなどを契約している顧客に対し、徐々にレコメンドを繰り返し、自社製品・サービス群の中を周回してもらうことでLTVを大きくしていきます。
クロスセルのメリット
効率よく売上を伸ばせる
クロスセルの対象となるのは、アップセルと同じく「一定以上の取引実績を持つ既存顧客」です。既存顧客へのアプローチは、新規顧客とは異なり信頼関係を築くための初歩的なステップを省略できます。したがって、アプローチが適切であれば、効率よく売上を伸ばすことが可能です。
顧客満足度が高まる
アップセルと同様に、クロスセルにも顧客満足度を高める効果があります。複数の製品・サービスに対して要望を引き出すことができるため、より深いニーズやインサイトの発掘につながります。ニーズ、インサイトをうまくおさえた商品は、さらに顧客満足度を高めるでしょう。また、クロスセルが成功すれば自社製品・サービスへの認知が進み、自社の魅力を効率よくアピールすることにもつながるため、結果としてより顧客を深く引き込むことができます。
関連サービスの認知拡大
アップセルにはないクロスセルのメリットとして、「関連サービスの認知拡大」があります。製品・サービスのラインナップが充実するにつれ、「内容は決して悪くないが、いまひとつ認知されていない」ものがでてしまうことがあります。こうした製品・サービスを人気のものに紐づけることで、認知拡大の機会を得られるでしょう。
クロスセルとアップセルとの違い
クロスセルは、「関連商品」をアピールする営業手法です。アップセルは「同種、同質で価格やグレードが高いもの」を勧める手法ですから、この点で明確な違いがあります。アップセルが上位の層への展開だとすれば、クロスセルは横の層への展開だと言っていいでしょう。
クロスセルの課題
クロスセルは、おすすめする製品・サービスの選定において「ニーズ」「インサイト」の把握が必要です。また、これらを解決するソリューションおよび提案力も求められます。
さらに、強いソリューション・提案力を実現するためには、営業部門・カスタマーサポート部門・カスタマーサクセス部門など、複数の部門を連携させる必要があるでしょう。このようにクロスセルは「ニーズ、インサイトの把握と提案力」「部門間連携」という2つの課題が生じるため、難易度が高い営業手法だといえます。
2. クロスセルを成功させるために必要な視点
クロスセルを成功させるための視点としては、以下3つが挙げられます。
社内データの分析
前述のようにクロスセルは、おすすめする関連商品を決める必要があります。この選定では、自社製品・サービスの利用に関する社内データの分析が必須です。社内データから「よく一緒に購入される製品」「関連度が高いサービス」などを抽出していきましょう。
ロイヤルティ構築
ロイヤルティとは、「忠誠心」「愛顧」などを表す言葉です。クロスセルを成功させるためには、自社製品・サービスに対して忠誠心や愛顧を持ち、長期的な関係の維持を望んでもらう必要があります。自社製品・サービスが顧客の目的を達成するほどにロイヤルティは高まり、やがてその度合いによって階層が分かれていきます。その階層とは「リピーター」「プロモーター」「ファン」です。
- リピーター …2回以上の製品・サービス購入を行った層
- プロモーター …製品・サービスを評価し、周囲におすすめする層
- ファン …長期的な関係維持のために支出を惜しまない層
リピーター → プロモーター → ファンの順にロイヤルティが高まっていきます。ロイヤルティを高めるために、顧客のニーズやインサイトを把握して適宜サポートしていきましょう。
適切なタイミングでの適切なアプローチ
クロスセルでは、顧客のニーズやインサイトを把握するために、さまざまなデータ取得(顧客情報、購買履歴、行動履歴、VOC)が必要です。また、顧客企業の日常業務で発生する課題や業務目標などを定期的にヒアリングすることも大切です。さらに、顧客側に購買力が備わる時期(予算編成のタイミングなど)も把握しつつ、レコメンドのタイミングを見計らっていきましょう。
クロスセルではこうした下準備を進めつつ、顧客課題の解決方法を練り、顧客へ提案するという流れが一般的です。また、BtoB領域でのクロスセルでは、課題解決の方法をまとめた提案書が必要になるでしょう。提案書作成では、顧客の課題・課題解決のアプローチ方法・ソリューションなどをわかりやすくまとめて記載し、提案力を高めていきます。
3. カスタマーサクセスを取り入れて、さらにクロスセルの成功率を高める
これら3つの視点に加えて「カスタマーサクセス」も意識していきましょう。カスタマーサクセスを取り入れることで、クロスセルの成功率を高めることができます。
カスタマーサクセスがクロスセルに有効な理由
カスタマーサクセスは、「顧客の成功」をゴールに据えた戦略・活動などを指す考え方です。カスタマーサクセスでは、LTVを軸にして「ハイタッチ層」「ロータッチ層」「テックタッチ層」という顧客分類を行います。
ハイタッチ層
3つの分類の中でLTVが大きく優先度が最も高い層です。頻繁かつ「個」を意識した丁寧なアプローチが推奨されます。
ロータッチ層
ハイタッチ層の次に優先度が高い層です。ハイタッチ層ほど頻繁である必要はないものの、顧客が求めるときには個別のフォローを実行できる体制が必要です。
テックタッチ層
LTV・優先度ともに低い層で、クロスセルの対象としては未知数な部分があります。ただし、一定数はロータッチ層やハイタッチ層へと変化するため、MAツールやカスタマーサクセスツールを使い、定期的にフォローを続けていく必要があります。
このように顧客を3層に分類することにより、クロスセルの候補を優先度順に管理しやすくなります。また、カスタマーサクセスでは顧客の状態把握を入念に行います。この状態把握が、クロスセルを成功に導く材料を提供してくれるわけです。
カスタマーサクセスツールの活用
ただし、カスタマーサクセスを進めていくには顧客データ収集と分析、日常的な状態把握とフォローなど、一定の労力が必要です。こうした労力をできるだけ小さくしつつ、成功確率を上げるためのツールがカスタマーサクセスツールです。カスタマーサクセスツールには、顧客分析の基礎となる各種データがCDP(カスタマーデータプラットフォーム)として一元的に管理されています。
カスタマーサクセスツールが保持するデータ
・顧客データ
・契約データ(単価、契約期間、LTVなど)
・過去のコミュニケーションデータ など
また、カスタマーサクセスをスムーズに進めるための機能も搭載しています。
カスタマーサクセスツールの機能
・顧客データ可視化、分析機能
・顧客の状態変化を知らせるアラート通知機能
・チーム内でクロスセルのための課題とタスクを管理する機能
・コミュニケーション履歴管理機能
・クロスセルの提案可否を判断するための指標設定、管理機能
カスタマーサクセスツールは、CRMとの連携も可能です。特に顧客データ分析機能は、CRMとの連携で分析精度の向上が期待できます。CRMに蓄積した情報資産を有効活用し、クロスセルの成功率を高めていきましょう。
4. まとめ
ここでは、クロスセルを成功させるための視点やツールについて解説してきました。クロスセルの成功率は、本稿で紹介した3つの視点とカスタマーサクセスによって大きく上下します。顧客ロイヤルティ構築とカスタマーサクセス活動の仕組み化には労力を要するため、カスタマーサクセスツール活用した施策がおすすめです。