近年注目を集めているカスタマーサクセスは、サービスの継続率向上やLTV最大化に寄与する取り組みです。その背景には、SaaSをはじめとしたサブスクリプションビジネス市場の成長があります。
従来の売り切り型ビジネスとは異なり、「購入した後」が重要であるサブスクリプションビジネスにおいては、カスタマーサクセスが欠かせません。本記事では、カスタマーサクセスの重要性や将来性について、さまざまなデータをもとに解説します。
1.SaaS市場の拡大とリテンションモデルへの移行
カスタマーサクセスの将来性を整理する前に、その前提となる市場の変化について解説します。
拡大するSaaS市場
UberやAmazon、Googleなど、世界中でSaaSをはじめとしたサブスクリプションビジネスへの転換が進んでいます。Report Ocean社の調査(※1)によると、2021年におけるSaaSの世界市場規模は約1,441億ドルであり、2022年から2030年までの期間において、年間約19%の勢いで成長していくと予想されています。
また、SaaS比較サービス「BOXIL」を展開するスマートキャンプ社が公開した「SaaS業界レポート2021(※2)」によると、国内のSaaS市場は年平均成長率13%を維持しており、2025年には約1兆4,607億円と、2020年度比で約2倍に成長する見通しとなっています。
リテンションモデルへの移行
SaaS市場の成長とともに、従来の「モノの販売」を中心としたビジネスロジックが通用しにくくなっています。なぜなら、「モノの販売」のような売り切り型のビジネスと、SaaSなどのサブスクリプション型のビジネスでは、収益計上のタイミングが異なるためです。
売り切り型のビジネスで収益が上がるタイミングが「販売時(売買契約の成立時)」という特定のタイミングである一方で、サブスクリプションビジネスでは「契約が継続する期間」は収益が発生し続けることになります。
そのため、サブスクリプションビジネスにおいては購入前だけではなく、購入後のフォローも重要です。サービスに価値を感じ続けてもらうほか、自社に対するロイヤルティ・愛着を高めてもらい、より上位のプランや関連する他のサービスも利用してもらえるよう、クロスセルやアップセルに取り組むことが企業の収益を向上させるポイントといえるでしょう。
このように、顧客に対して継続的にサービスを提供するビジネスモデルを「リテンションモデル」と呼びます。SaaS市場をはじめとして、現代のビジネスにおいてはリテンションモデルへと移行する領域が増えつつあります。
※1参考:Report Ocean「GLOBAL MARKET HISTORY AND OUTLOOK OF MARKETING SAAS PRODUCTS」
https://reportocean.com/industry-verticals/details?report_id=AR24422&cat_title=Information%20&%20Communications%20Technology
※2参考:スマートキャンプ「SaaS業界レポート2021」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000123.000012765.html
2.SaaS提供企業においてカスタマーサクセスができる貢献とは
それでは、リテンションモデルに基づき、商品・サービスに価値を感じ続けてもらうために、カスタマーサクセスはどのように貢献できるのでしょうか。
カスタマーサクセスの役割
カスタマーサクセスでは、顧客が抱えている課題の解決や目標達成など「顧客の成功」につながる支援を、サービス提供側が能動的に行います。
従来、課題解決やビジネス成功に向けた活動は顧客側の取り組みと認識されていましたが、リテンションモデルにおいてはカスタマーサクセスとしてサービス提供側にその役割が求められます。
カスタマーサクセスの必要性
上述の通り、サブスクリプションビジネスで収益性を向上させるためには、サービスの継続利用やクロスセル・アップセルが重要です。いかにして顧客の成功を支援し、選ばれ続ける存在となれるかの視点が欠かせません。
顧客の課題解決や目標達成のために自社のサービスがどう役立つかを認識してもらうために、カスタマーサクセスは活動します。
3.カスタマーサクセス市場の概況と将来性
これまでの内容を踏まえ、カスタマーサクセス市場の将来性について整理します。
カスタマーサクセス市場の推移予想
Mordor Intelligence社の調査(※3)によると、カスタマーサクセスの世界市場は、2021年~2026年において年平均24.4%成長すると予測されています。特にカスタマーサクセスの市場が拡大している地域が、アメリカをはじめとする北米です。アメリカでは、中小企業・中堅企業だけではなく、大企業も含めてカスタマーサクセスの取り組みが進んでいる状況にあります。
たとえば、アメリカの大手小売企業であるウォルマート社では、カスタマーサクセスの取り組みに向け、2018年にCCO(Chief Customer Officer:最高顧客責任者)を設置しました。いわゆる「ノンテック」業界にもカスタマーサクセスが普及しはじめたことは、当時大きなニュースとなりました。
日本におけるカスタマーサクセスの浸透状況
当社が実施した『IT 企業の経営層・マネジメント層を対象とした「カスタマーサクセスに関する意識調査」(※4)』においては、IT企業の経営層・マネジメント層の約52%がカスタマーサクセスを認知しており、その約70%が「事業戦略として重要」と考えていることが明らかとなりました。
また、カスタマーサクセスを認知している企業のうち、約46%がすでにカスタマーサクセスに取り組んでおり、今後取り組みたいと考えている企業も約45%を占めています。
カスタマーサクセス職の求人状況
カスタマーサクセスの役割を担うカスタマーサクセスマネージャーをはじめとした職種の求人ニーズはどうでしょうか。転職サービス「doda」を運営するパーソルキャリア社が行った調査(※5)では、インサイドセールスやカスタマーサクセスに関する求人数は、2019年~2022年までの3年間で12倍も増加している結果が明らかとなっています。求人状況の伸びからも、各社がカスタマーサクセスに力を入れはじめていることが読み取れます。
カスタマーサクセスは将来性が期待できる領域
これまでのデータから見ても、カスタマーサクセスは将来性の高い領域といえるでしょう。カスタマーサクセスは、アメリカを中心としてビジネスへの有効性が明らかとなっています。日本においても、サブスクリプションサービスの普及によってカスタマーサクセスの認知率は高まっており、今後も多くの企業で導入が進むでしょう。
※3参考:Mordor Intelligence「Global Customer Success Management Market – Growth, Trends, COVID-19 Impact, and Forecasts (2021 – 2026)」
https://www.reportlinker.com/p06195699/Global-Customer-Success-Management-Market-Growth-Trends-COVID-19-Impact-and-Forecasts.html
※4参考:IT 企業の経営層・マネジメント層を対象とした「カスタマーサクセスに関する意識調査」
https://customercore.jp/news/1299/
※5参考:転職サービス「doda」、「第3回”新しい時代に求められる営業職”に関する調査」を実施
https://www.persol-career.co.jp/pressroom/news/research/2022/20220224_02/
4.まとめ
本記事では、カスタマーサクセスの将来性について、様々なデータをもとに解説しました。カスタマーサクセスは、現代のビジネスにおいて欠かせない取り組みであり、今後ますます重要度が高まると予想されます。ビジネスの発展と収益性向上に向けて、積極的に導入を検討しましょう。