カスタマーサクセスの重要性が高まる中、カスタマーサクセスマネージャーという職種への注目と求人数が増加しています。Sansanなどの大企業もカスタマーサクセス部門を創設するなど、今後カスタマーサクセスマネージャーの需要が一層高まっていきそうです。
この記事では、カスタマーサクセスマネージャーが多くの企業から必要とされるのはなぜなのか、その役割から主な業務内容、求められるスキルまで解説します。
目次
1. カスタマーサクセスマネージャーとは?なぜ注目を集めているのか
カスタマーサクセスマネージャー(CSM)とは
カスタマーサクセスマネージャーとは、カスタマーサクセス業務の担当者です。欧米で特に高い注目を集めており、マイクロソフト社では全世界に1,000人規模の体制で配置するなど、有望な職種として取り上げられています。日本でも、カスタマーサクセスの重要度が高まるにつれ、需要はますます増加していくでしょう。そのため、早期に経験を積み、スキルを身に着けることが出来れば、その後のキャリアアップも期待できます。
カスタマサクセスマネージャーが注目される背景
現代では、1回ごとに売買取引が完結する売り切り型のサービスモデルから、必要なサービスを定額制で提供するサブスクリプション型のサービスへトレンドが転換しつつあります。背景にあるのは、モノを保有する「モノ消費」から、モノやサービスが持つ価値を利用する「コト消費」への消費行動の変化です。
サブスクリプション型のサービスは売り切り型のモデルではないため、契約して終わりではなく、契約してからサービスを利用し続けてもらう必要があります。そのためには、まず顧客のビジネスや目的を深く理解し、顧客の成功のために自社サービスが提供できる価値とは何かを定義しなければなりません。その上で、顧客がサービスを使い続けてくれるよう、能動的にサポートしていくことが鍵となります。
そのような能動的・積極的なサポートによって顧客のビジネスの成功に貢献し、顧客が自社サービスを使い続けることで得られる価値(LTV:生涯顧客価値)を最大化する業務がカスタマーサクセスです。そして、これらの業務を担う役割をカスタマーサクセスマネージャーといいます。
カスタマーサクセスが実現されていると、契約のリニューアルや、アップセル・クロスセル、売上確保や契約追加による売上増加にも繋がりやすくなります。そのために、実行部隊として働くカスタマーサクセスマネージャーは欠かせない存在であり、サブスクリプションビジネスのキープレイヤーとして注目されているのです。
しかしカスタマーサクセスは、日本では浸透し始めたばかりの概念です。そのためカスタマーサクセスに精通した人材はそれほど多く存在しません。カスタマーサクセスマネージャーとしての経験を十分に積んでいる人はもちろん、スキル・マインドセットを含めて適正がある人材のニーズは高まっており、カスタマーサクセスに取り組む多くの企業が優秀な人材の獲得競争・育成に乗り出している状況にあります。
2. カスタマーサクセスマネージャーの業務内容
カスタマーサクセスマネージャーは、従来のカスタマーサポートなどと異なる能動的なアプローチ方法を行います。先行するアメリカでの調査(2016 Customer Success Salary Survey & State Of The Profession Report)によると、以下の業務の優先度を高くしている企業が多いようです。各項目の割合は、調査レポート内で優先度が高いカスタマーサクセス業務の項目として挙げられた割合です。
●チャーン率(解約率)減少:76%
新規顧客の獲得や、既存顧客の契約金額の増加に成功しても、母数が減少してしまうと利益は悪化傾向になります。そのため、このチャーン率の減少は非常に重要な課題です。日本の企業でも、このチャーン率の減少を最重要事項とする企業が多いでしょう。
●オンボーディング:61%
顧客がサービスを導入してから運用を開始し、定着するまでの支援を行います。一般的に、導入後の定着率が悪い場合、その後の活用が進まず、解約率が高まるとされています。そのため、継続利用のためにもオンボーディングは重要です。
●サービス説明から契約:60%
日本では営業部が担当する企業が多いと思います。しかし、営業部との連携を円滑に進めるためには、顧客との最初の接点からカスタマーサクセス担当者が関わることも効果的です。
●カスタマーサポート:48%
サービスを利用中の顧客からの問い合わせに対応します。顧客にとっては、信頼関係のあるカスタマーサクセスマネージャーは、営業でもありサポートでもあります。ただし、企業によっては、従来のカスタマーサポート部門が担当する場合もあります。
●カスタマー・アドボカシー:44%
顧客との長期的な関係性を構築し、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化する役割です。MA(マーケティングオートメーション)などを用いたリレーションシップマーケティングです。企業が持つ情報を活用し、顧客に誠実にアドバイスを行います。カスタマーサクセスの根幹の考え方と同一と言えます。
●アップセル:31%
サービスの拡張や新サービスの契約などを行い、1人あたりの契約金額を増加させます。営業的側面が大きいですが、顧客のゴールや課題、現在の状況を把握しているカスタマーサクセスマネージャーの方が適している場合が多いです。
3. カスタマーサクセスマネージャーの求人案内の具体例
ここでは、日本国内の求人情報を元に、想定年収や求められるスキル・経験を解説します。
先ほどのアメリカの調査によると、アメリカのカスタマーマネージャーの平均年収は、$77,000(1ドル104円換算:約800万円)とされています。
継続利用率やアップセルなど利益に直結する業務を担当するため、成果報酬も大きく、結果次第で大きく収入を増やすことができます。また、現在引く手あまたの職種のため、カスタマーサクセスの実務経験は、希望の条件の仕事に就きやすくなるなど、その後のキャリアアップをはかる際にも大きなメリットになるでしょう。
クラウド労務ソフト提供企業
想定年収 | 400~600万円 |
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業務内容 |
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求められるスキル・経験 |
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外資系クラウドシステム提供企業
想定年収 | 500~600万円 |
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業務内容 |
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求められるスキル・経験 |
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ToB向けクラウドサービス提供会社
想定年収 | 500~1,000万円 |
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業務内容 |
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求められるスキル・経験 |
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カスタマーサクセスは、主にSaaS提供企業が実施しています。そのため、IT業界での勤務経験があることはプラスに働きます。また、顧客の成功に必要な課題を把握し、解決策を提案することが求められるため、コンサルティングの経験者も優遇されます。
業務経験以外で重要視されるのは、高いコミュニケーション能力です。顧客と信頼関係を長期に構築していくためにも必須のスキルと言えるでしょう。また、カスタマーサクセスの取り組みを開始したばかりの企業も多いため、新しいことに挑戦し、構築していけるマインドも重要です。
4. カスタマーサクセスマネージャーの適性
3章では具体的なカスタマーサクセスマネージャーの求人情報をもとに、求められる業務内容やスキルを解説しました。本章では、マインドセットとスキルセットの観点で求められる適性について解説します。
求められるマインドセット
カスタマーサクセスマネージャーは日々新しいことへの挑戦が求められるため、個人のマインドセットが重要です。何よりもまず業務内容に対して興味がある・楽しく取り組めることを前提とした上で、下記のような条件を満たしていると良いでしょう。
- 自分とはまったく異なる考え方をする人も含め、他者と関わることが得意
- 顧客の課題を解決する必要があり、様々な状況においてロジカルに考えることが得意
- これまでに取り組んだことがない顧客の課題や未知のことに挑戦することが好き
- 新しいテクノロジーが好き
- 忍耐力・根気の強さ(成果が出るまで時間がかかることも珍しくないため)
- 良いことだけでなく、必要があれば顧客にとって耳が痛いことも躊躇わず指摘できること。また、それができる顧客との関係構築力
- 悲観しすぎない(すぐに成果がでなくても割り切る、やるべきことを淡々とこなす必要がある)
- 周囲の協力を仰げる人
- 顧客の活動を引っ張っていく積極性
求められるスキルセット
- カスタマーサポートや営業など顧客折衝の経験
- 良質なコミュニケーションスキル
- コンサルティングスキル
- データ分析能力
- 冷静な判断力
- タスクやスケジュールのマネジメント能力
- タスク処理能力
- 営業力(アップセルやクロスセルの提案z、顧客の課題解決、プレゼンテーション力、社内外の調整、期待値コントロールなど)
- プロジェクトマネジメント能力
カスタマーサクセスを実現するうえで、カスタマーサクセスマネージャーには部門以外の関連部門と連携をしながら業務を進めていく調整力も期待されます。LTV最大化のためにはカスタマーサクセス部門だけでなく、他の部門も横断した対応が求められることもあるためです。求人情報に具体的に記載されることはほとんどありませんが、プレゼンテーション力やコミュニケーション力のような営業的スキルや素養を身に付けていると、カスタマーサクセスマネージャーの業務遂行にプラスに働くでしょう。
5.カスタマーサクセスマネージャーの存在が重要な理由
これまで解説してきたように、サブスクリプションサービスでは、顧客に自社のサービスを継続して利用し続けてもらう必要があります。そのためには、カスタマーサクセスマネージャーが顧客と向き合い、顧客の成功に向けたサポートをすることが重要です。カスタマーサクセスは営業と異なり、商談を進めて契約を勝ち取ることが目的ではなく、契約してはじめてスタートとなります。
顧客にツールやサービスを使い続けてもらうことで、LTV(顧客生涯価値)を最大化し、それが自社の売上や利益に直結します。カスタマーサクセスにおける活用支援の段階で、顧客が自社のファンになってくれれば、将来的により多くの利益を会社にもたらす可能性もあります。したがって、丁寧に伴走支援を行い、顧客へ価値を提供するカスタマーマネージャーの存在が、非常に重要となるのです。
また、営業担当者よりもカスタマーサクセスマネージャーの方が、顧客と接する期間が長くなる傾向があります。提案段階は長くて半年から1年だとしても、サブスクリプションサービスでは契約後数年にわたりサービスを利用する顧客が多いためです。新規の顧客を獲得することはもちろん重要ですが、既存顧客の満足度を維持・向上させ、期待を裏切らないための取り組みが欠かせないのです。
6. まとめ
この記事では、今注目を集めているカスタマーサクセスマネージャーの仕事について解説しました。カスタマーサクセスの業務は、今後もさまざまな事業において重要性が高まっていきます。早期に経験やスキルを身に着けることで、その後のキャリアアップにも大きくつながっていくでしょう。